「お疲れ様。オネエサン」


「迎えに来てくれたの?」


「うん」


一日の診療を終えて裏口を出れば、ヒロが迎えに来ていた


「徒歩三分だけど」


「それでもしんぱーい」


「ありがとう」


「どういたしまして」


見た目不審者のヒロと手を繋いで街を歩く


たった三分だけど


恥ずかしい気持ちとむず痒い思いが迫り上がってくる


そんな私を揶揄うヒロと歩く街は、夜に向かって色をつけていた


「あのね」


エントランスを抜けてエレベーターを呼び出したところでヒロが視線を落とした


「ん?」


僅かにしか見えない目を追いかけていると


「兄貴に晩御飯の招待を受けた」


ヒロはため息混じりにそう言った


「・・・え。じゃあ。なにか」


お呼ばれの手土産を買いに行かなきゃ


「ううん。要らない」


「・・・っ。なんで?」


「だって、兄貴だよ?」


「だからでしょう?ヒロのお兄さん家族なんだから。ちゃんと挨拶しなきゃ」


そう言った私をジッと見つめたヒロは


「オネエサン。良い子だね」


繋いだ手に力を入れた


「ケーキでも買いに行こう?」


「いーや。やっぱり手ぶらで良い」


「なんでよ」


「アイツらにケーキとか勿体無い」


唇を尖らせている風だけど、マスクの所為でイケメンさはゼロだ


「モォォォォ。私の問題だからヒロは口出ししないでっ」


「えぇぇぇ」
 

エレベーターが降りてきたのに乗り込まない私達を

篠田さんはカウンターの中から笑って見ている


それも合わせて恥ずかしくて、繋いだ手を離すとヒロに手を振った


「先に帰ってて」


「ちょ、待って。じゃあ一緒に行くから」


途端に焦ったヒロによって


ガッチリと肩を抱かれるという恥ずかしい体勢になってしまった




「な〜んだ。肩を抱かれたかったんだ」


「ち、がうしっ」