━━━翌日


「オネエサン。おはよ」


スマホの目覚ましが鳴った途端、ベッドの脇からヒロの声がした


「・・・おはよ」


ベッドに顎を乗せてニコニコしているヒロ

どうして部屋に入ってきているのかも気になるけれど、ここの家主はヒロだ


「寝起き可愛い」


絶対ヒロの方が可愛いに決まってる


「・・・見、ないで」


「寝ぼけてるの可愛い」


可愛いを連呼するヒロは、いつから居たのだろう


「サァ、起きないと遅刻しちゃうよ?」


「うん。起きる」


「朝は[おはよう]のメッセージだったのに
直接起こせるとか、もう天国に来たみたい」


テンションの高いヒロに関心していれば

ボゥとする頭のまま起き上がった私の手を引いてくれた


「オネエサンは顔を洗ってきて」


「ん?」


「朝ごはんは僕に任せて」


「あ、うん。ありがとう」


お言葉に甘えてポーチを持って洗面所へ向かう


人感センサーで点灯する明るい空間に目を細めた


顔を洗って歯磨きを済ませる

寝癖のついた髪は濡らして編み込んだ

ベースメイクとリップを塗ると、漸く目が覚めた気がした







「良い匂い」


「でしょ。トーストにしたよ」


そこで私と目を合わせたヒロは目を見開いて破顔した


「めちゃくちゃ可愛いんだけどオネエサン」


伸びてきた手が編み込んだ髪に触れてから頬に移る


「・・・」


この子は朝から私の心臓を何度止める気だろう


熱の集まる頬を誤魔化しながらテーブルについた


香りの良いコーヒーとトーストにヨーグルトが一個


簡単な朝食だけど。何もできないと言ったヒロが作ってくれたことが嬉しい


「「いただきます」」


ガラスのダイニングテーブルに真っ白なランチマット


向かい合って座るヒロはピョコンと跳ねた寝癖すら可愛い


・・・なんだか。幸せ


置かれた状況は決して良いものではないけれど、ヒロのお陰で夜もグッスリ眠れた


こんなイケメンが私の初彼氏とか


・・・眼福、眼福


フフと笑った私を見てヒロの片方の眉が上がった


「絶対僕のことだよね」


「ん〜?どうだろ」


「モォォォォ」


イケメンがトーストを持って身悶えするとか煩い心臓は治りそうもない

そんな私を知ってか知らずか

「やっぱ隣が良い」


ヒロはランチマットごと右隣に移った


「カップルシートだ」


「・・・カップルシート?」


「横並びの席のこと」


「知らなかった」


「僕も初めて」


本当に初めての彼女なのだろうか

モテると言うくらいだから選び放題だったはず


「オネエサン」


「ん?」


「疑うのは良くないよ?」


「・・・っ」 うそ


慌てて口を両手で塞いだ