━━━絶句


「ほら、置いてくよ〜」


「・・・っ、待って、ヒロ」


一等地。なんて笑っていた自分が恥ずかしい


中央駅に向かって歩くこと五分
これまで歩いて来なかった大通りの対岸
まさしく“一等地”と呼ぶに相応しい場所に建つツインタワーがヒロの家だった


高級感溢れるエントランスを抜けると


「お帰りなさいませ」


専用のバトラーが出迎える


それを完全に無視したヒロは更に奥の自動ドアを抜けた


濡れた傘とレインブーツ。ヒロが引くキャリーバッグから落ちた雨粒は綺麗なフロアに跡を残している


「お帰りなさいませ」


奥のカウンターにも別のバトラーがいて、また丁寧に頭を下げられた


てか、ヒロってお金持ち?


お金持ちだよね?


そうだよね?


若干焦る私をツンと澄まし顔のヒロが
「ソファで待ってて」と座り心地抜群のソファに座らせた


・・・なんだろう


背中をつけることも忘れて浅く腰掛けて待っていると、ヒロはバトラーを連れて戻ってきた


「浅見様、私。篠田と申します」


丁寧に頭を下げた篠田さんはセキュリティの登録をするための器具を持ってきていた


順番に生体認証と声の登録をする

気後れするほどの場違いな雰囲気に呑まれたまま


エレベーターに乗り込んだ


「・・・ヒロ?」


隣りのヒロを見上げる


クシャと顔を崩して笑ってくれたヒロは


「オネエサン。ごめんね?驚かせたよね
でも、セキュリティは厳重だから安心でしょ?
だから、何も心配せず死ぬまで此処で暮らして良いからね?」


冗談とも本気とも取れることをサラリと口にした


「場違いじゃないかな」


「大丈夫だよ。僕もスウェットだし」


グレーのスウェットの上下を着たヒロはパーカーも被ってマスクもしている


いつもの不審者スタイル


それでも


「落ち着かない・・・よ」


「それは初めて来たからでしょ?一週間もすれば見慣れてくるから大丈夫」


ヒロが片目を閉じると同時に

揺れも感じないエレベーターは、あろうことか最上階で止まった