「オネエサン。起きられそう?」


「・・・あ、うん」


ヒロに支えられながら身体を起こす


「大丈夫そう?」


「うん。大丈夫」


「じゃあ荷物まとめよっか」


「・・・ん?」


確かにこの部屋に一人は怖いけれど。今すぐどこかに行くのは難しい


・・・あ。院長に頼んでみようか


「ちょっと電話しても良い?」


「いいけど、誰に?」


「働いてる病院の院長。次が決まるまで間借りできるかもしれない」


院長は病院の二階に住んでいる


診察室を思い出せば不安しかないけれど
片付けは得意だからなんとかなるだろう


「ダメ」


「え?」


「オネエサン。院長っていっても“男”だよ?」


「ん、まぁ、そうだけど」


「考えてみて」


「ん?」


「押し込み強盗が入ってきた時、誰に電話しようとしたの?」


「それは・・・」


「僕でしょ?現に僕からの着信に救われた」


確かに、頭に浮かんだのは警察でも杉田さんでも院長でもなくヒロだった


「だから次が決まるまではうちで暮らして」


懇願するようなヒロの瞳は揺れている


それに心が動くんだから


ヒロに甘えてみても良いのかもしれない


南の街に来て僅かなのに。ヒロは大切な人になっている


もちろんヒロだって“男”
抱きしめられたり。頭の天辺にキスされたりしたけど
何にも変え難い絶対的な安心感がある



なにより


ヒロと同年代にも見えたあの男性は


見た目だけならヒロと同じくらいイケメンだった

でも

怖いだけじゃなくて、触れられたくなかった


それは、靴を履いたまま家の中に逃げ込むほど



嫌だったのだ