重い目蓋を開くとヒロの顔が間近に見えた


「・・・ヒロ?」


眉を下げたヒロが泣きそうに見えて手を伸ばす


「オネエサン」


サラサラの髪を撫でるとヒロはフニャリと顔を緩めた


それより
「・・・なんで」

ベッドに寝ているんだろう・・・っ!


巡らせた記憶にあの男性が浮かび上がった


「ヒロっ、あの人は?あの、ねぇ」


パニックに陥いる私を寝たまま抱きしめたヒロは


「なんかね、道を聞きたかったって言ってた」


意外な答えを告げた


「・・・え」


「なのに怖がらせちゃってごめんなさいって言ってたよ」


「うそだ」


「本当」


「だって、二階だよ?此処」


「一階に誰もいなかったんだって」


そんなの嘘に決まってる


そう思うのに


いつもより落ち着いたヒロの声に惑わされる


「もう二度と来んな!って脅したからね。もう来ないと思うよ?」


「でも」


焦る私と対照的に落ち着いたヒロは


「引っ越ししようか」


唐突に優しい声でそう言うと抱きしめる力を強くした


「だって怖いよね、此処じゃ」


「・・・うん」


「セキュリティないし。裏通りだし。隣りが男だし。窓にロックがひとつ
もう強盗ウェルカムだもんね」


「・・・そこまで、かな」


自嘲気味に呟いてみても、ガタガタと震えた感覚はリアルに覚えていて


ヒロの指摘が大袈裟でもないことを認めるしかなかった


「オネエサン」


「ん?」


「電話、取ってくれてありがとう
いくらメッセージ送っても、ちっとも既読にならないから
電話かけてみたんだけど。かけて良かった」


抱きしめていた身体を離したヒロは、泣きそうな顔で笑った


そうだ。バッグの中からスマホを取り出した時

ヒロからの着信の真っ最中だった


だからこそ手間取ることなく繋がった

マナーモードにした記憶もないけれど、あの画面に表示されたヒロの名前に救われた


「私こそ、ありがとう。あの時パニックでね
ヒロが電話してくれなきゃヤバかった」


そっとそっと頭を撫でる手が僅かに震えているようで


胸が苦しくなった