言葉を交わすこともなく、だからと言って居心地も悪くない時間は終わった


またシンとした車の中に戻って山を下る
眠っていた所為で見損なっていた景色も、街灯の無い山道ではライトに照らされた一瞬の繰り返しで見ることにはならなかった


眩い街へ戻ってくると車はコンビニの駐車場に止まった


此処・・・ヒロを拾った公園の隣りだ


・・・なんで?


彼に家を教えたことはない


単にコンビニに用があったのだろうか


それとも院長に聞いた、とか



過ぎる思いが口から出ることはなく


彼が動かない今


私に残されたのは車を降りることだけ



「ありがとうございました」


小さくお礼を言う


彼からの反応がないことに戸惑いしかないけれど


高台にいた時間と違って、今は無言に耐えられそうもない


シートベルトを外してドアを開けた

身体を滑らせて外に出ると頭を下げる


その間、なんの反応も無いことに諦めてドアを閉めようとした


僅かな隙間に


「おやすみ」


運転席から低い声が届いた


「ハァ」


知らず知らずのうちに肩に力が入っていたようだ


車の後方を抜けて公園脇の道へ入る


なんで、どうしてだけが渦巻いているうちにアパートに着いてしまった



お詫びのドライブは


現実感を薄くしていた


もう二度とお詫びなんてないだろうし


忘れた方が良いのかもしれない


私とは住む世界の違う高嶺の花だった


晩御飯を食べ損なったことも忘れて


ベッドにダイブする


明日、院長に聞いてみる?


・・・あ。明日は休みだ



車に揺られて眠ったことも忘れて



落ちていく意識の中で


シルバーの指輪が印象的に光った










そんな私は


ヒロが仕事終わりに迎えに来ると言った約束が、すり替わったことにすら意識が向かなかった