「おはようございます」


「・・・あぁ」


「顔を洗って歯磨きしてきてくださいね」


「・・・年々婆さんに似てきたんじゃねぇか」


「告げ口しますよ?」


「チッ」


━━━勤務二日目


なんと院長は昨日、囲碁の相手が終わると雇用保険の登録も済ませたらしい


「二人しかいないから、国保と国民年金な」


「了解です」


適当かと思いきや、雇用に関してはキッチリしている


「変なの」


「悪口か」


「どうでしょう?」


フフと笑って掃除に取り掛かった


病院入り口の扉の鍵を開けてガラスにかかるカーテンを開く


箒とちりとりを持って外に出た途端


「おはよう、オネエサン」


朝からイケメンのヒロが立っていた


「どうしたの?」


病院の場所まで言ったっけ?


それより


「どこか具合が悪い?」


近付いてオデコに触れようと上げた手を引かれ
気がつけばヒロの腕の中に抱き寄せられていた


「・・・、ヒロ?」


「オネエサン、今日も可愛い」


「・・・っ!」


朝から心臓を壊す気だろうか


「メッセージが既読にならないから来ちゃった」


昨日。仕事中はスマホは更衣室に置くって伝えたはず

揶揄われていると思うのにカーっと頬に熱が集まる


「帰りは迎えに来るからね?」


「だ、いじょ、うぶ。だよ」


呼吸まで乱れてくるから途切れ途切れになった


「だ〜めっ。僕が迎えに来るまで待ってて」


「でも」


「じゃないと離さないよ?」


これは立派な脅しだ


「分かった」


思っていても抗えない事実を知るのは、息を止めたり、心臓を早打ちさせたりする自分である


「ん。良い子」


頭を撫でてから離れたヒロは


「約束破ったら監禁だからね」


可愛く笑って片目を閉じると手をヒラヒラと振って背中を向けた


急に逃げる熱


甘い声


なにより五月蝿い心臓が


寂しいと震える


よく分からない感情が


フワリと漂うヒロの残り香に乱された