一時間後


「杏珠、おはよ」


やっと寝ぼけた院長が起きてきた


「おはようございます」


白衣を着ていなければ医者とは思えない風貌に白けた視線を送ってしまう


そんなことを気にする風もない院長は


「スクラブ、注文しねぇとな」


棚から医療系のカタログを取り出した


「ほら、好きなん頼め。ワンピースでも良いぞ?」


ニヤリと笑う院長は「紺は辛気臭せぇ」と片眉を上げた


「じゃあ派手なのにしますね」


「お〜そうしろそうしろ」


手をヒラヒラとさせて揶揄っているようだけど
この言葉にも院長の思い遣りが感じられて、不覚にも泣きそうになる


そんな私に気づいているのか


「別の病院に来たみたいだな〜」


準備を整えた診察室と処置室を見て回ると「スゲェ」を連発してギィと音を立てて椅子に座った


「私、外の掃除をしてきますから、院長は受け付けと待合室をお願いしますね」


「えぇぇぇ、面倒臭せぇ」


「私を雇った以上は整理整頓、片付け掃除は基本ですよ」


「忘れてたぁぁ」


頭を抱える院長を見ているだけで、西の街の嫌な記憶がまたひとつ薄れるようだった