「それで?」


「・・・ん?」


「なんで走った訳?」


・・・そうだよね


ヒロにすれば私と出会しただけでアパートに連れ込まれたも同然


「・・・えっと」


冷静になって言葉を選ぼうとしたけれど、恥ずかし気もなく腕を引いたことに口籠る


もちろん、それが通るはずもなく


理由を晒すことになった


「・・・ブッ」


「笑わないで」


「だって。オネエサン。僕が犯人で警察に追われてるって思ったんでしょ?」


「それは、そうなんだけど」


「ハハハハ」


右手で大袈裟にお腹を叩きながらヒロは笑った


「そんなに笑わなくても」


「オネエサンが足が速いって分かったから、いいとする」


いいと言いながらも顔は笑っているままだ


「忘れて」


「忘れる訳ないじゃん。こんな、面白いこと」


またも笑い始めたヒロに


「モォォォォ」


頬を膨らませた


「ごめんごめん。オネエサン」


「絶対悪いと思ってない謝り方だからね」


「ハハハ」


「だってヒロが走ってて・・・違う足音まで聞こえたら、追われてると思うよ」


「たまたまじゃないかな」


「だから・・・早とちり。ごめんね?」


頭ひとつ背の高いヒロを見上げると


「モォォォォ」


今度はなぜかヒロが頬を膨らませた


「・・・ん?」


「誰も拾わないって約束した」


そうだった


杉田さんとも約束したばかりだった


「拾ったんじゃなくて」


「でも結果的に拾った」


油断も隙もない、なんて拗ねているヒロはやっぱり可愛かった