「今日はお出かけだった?」


「はい。ハローワークです」


大きなバッグから求人票を取り出してカウンターに置く


「今時はそんな感じなんだね」


「そんな感じ、とは?」


「昔はパソコンなんて無かったから、この求人票が手書きでさ、下敷きみたいなプラ板の間に入ってて
十五件くらいの束を取って一枚一枚捲りながら吟味するっていう重さとの戦いだったんだ」


「それは重そうですね。今は端末で検索するだけのお手軽簡単職探しです」


「で?」


「ん?」


「疲れた顔をしてるけど、なにかあったの?」


杉田さんの鋭い指摘に目を見開いた


「えっと、愚痴になりそうなんですけど」


「良いよ。友達一号で保護者代わりなんだから聞くよ」


「ありがとうございます」


前回とは違う花柄のカップを見ながら吐き出したのは


多くの求人があるのに決められそうもない不安だった


「そうか。そうだよな。病院は沢山あっても噂までは知り得ないもんな」


「・・・はい」


「じゃあこういうのはどうだろう」


杉田さんの提案は気になった病院をプリントアウトして、この店に持って来るというシンプルなものだった


「ご迷惑じゃ」


「ないからね」


「ありがとうございます」


「僕だってアズちゃんの心配したいからお安い御用さ」


どこまでも優しい杉田さんに
「出会えて良かった」


「ん?え?僕のこと?」


「フフ、他に知り合いもいないので」


「おっ、なんか嬉しくなったからコーヒーは僕からのサービスにしよう」


「いえいえ、それはダメですよ
“喫茶あひ”がなくなったら困るので」


「コーヒー一杯くらいじゃ潰れないと思うけどなぁ」


「それは心配していませんよ。私が遠慮なく来たいだけなので」


「じゃあ了解」


人の縁って不思議だなと思ったところでヒロの顔を思い出した