[お金がない]


「お嬢様っ、大変ですっ」


学校から帰って、自室でうたた寝をしていたら紫音の切羽詰まった声で目が覚めた。


勢いよくドアを開けて入ってきた彼。


右手はワナワナと震えながら、金庫の鍵を握りしめている。


彼が顔面蒼白になっていることに気がついて、すっかり眠けも吹っ飛んだ。


「どうしたの?紫音」


「どうしたもこうしたも。ど、泥棒が」


「まあ、泥棒って?何かなくなったの?」


「金庫の中にあったはずの現金が全てなくなっているんです。
当面の生活費が消えてて。
昨日の朝まではちゃんとあったはずなのに」


凄い勢いでまくしたて、どうしょうと力無く呟く。


「あ、それは」
 

彼の言う金庫にあったはずのお金のゆくえに心当たりがあったのだけど、一瞬ためらった。