「クソッ、こんなの黙って見てられっかよ。
お嬢様にぶつけた奴は俺がぶん殴って」


「殴っちゃダメだよ、紫音。これはスポーツなんだから」


クスッと笑って、我慢できずに彼の逞しい胸に縋りついた。


「紫音、紫音」


これは夢じゃないかってまだ信じられない。


だから確かめるように彼の背中に手をまわして強く抱きしめた。


あたりから無数の悲鳴が聞こえてきたけど、彼以外のことなんてもう何も考えられない。


「おかえりなさい、紫音」


「……ッ」


彼をまっすぐに見上げ、素直な気持ちを告げた。


「私ね、紫音のことが大好きだよ」


やっと言えたから、嬉しくてたまらない。


彼は驚いたように目を見開き、強く抱きしめ返してくれた。


その手はかすかに震えている。


「もう、どこにも行かないで」


「……俺もここにいたいです……お嬢様のそばに」


「うん」


その言葉を聞いて、幸福感でじわりと胸が熱くなった。