その場がこう着状態だったので、急いで紫音に駆け寄りその腕に縋り付く。


「紫音、もう行こう」


天堂さん達に、浅く一礼してから紫音を引っ張って歩きだそうとした。


沢田さんは気が緩んだのか、両腕を下ろすと力が抜けたようにその場でフラッとよろけてしまう。


「大丈夫か?沢田」


「はい、坊ちゃん、すみません」


「いや、いい」


天堂さんに後ろから支えられた沢田さんは何度も謝っていた。


私の方も紫音に対して、どうしても謝りたかった。


「ごめん、ごめんね、ごめんなさい」


また彼に迷惑をかけてしまった。自分の軽率な行動を悔やんだ。


顔色が真っ青になっていた彼は「いいえ、平気です」と返すだけで、私のことを責めたりはしなかった。


この時、彼は満身創痍で疲れているように見えたけど、保健室で少し治療を受けただけで放課後、予定通りにバイトへ行ってしまった。


この日のことはカフェテリア事件とよばれて生徒たち同士では有名な話になったたらしい。


だけど、天堂さんも紫音もどちらも学園側から一切処分を受けることはなかった。


おそらく、天堂さんによってもみ消されたんだって思った。


それは同時に、彼が学園に対してそれほどの権力を持っているってことの証明。


これからどうなるんだろう。


紫音になにか悪いことが起きなきゃいいんだけど。


そんな不安を抱えながら、その日は晶ちゃんの家に泊めてもらった。


だけど紫音の帰りはやっぱり遅くて、怪我のこともあるからちょっぴり心配だったんだ。