「じゃあ、これお礼ね」
彼女が俺にくれたのは、謎の招待券。
「これは…あの有名なお寿司屋さんの招待券!?」
そう、あの、予約が2年先まで埋まっているという有名なお寿司屋さん。
「私、お寿司苦手でさ、もらっちゃったし」
彼女は、俺にはにかんで見せた。でも、俺は知っていた。
「これ、本当にもらいもの?俺の浅はかな知識だけど、これさ、2年先まで予約が埋まってるようなお店だから、多分もらいものじゃないと思うんだ。
…君が取ってくれたんでしょ?」
「…さすが、私の専属シェフだね。そう、蒼介の料理が美味しかったら渡そうと思ってて」
招待券には、2年後の予約日が記載されていた。
「2年後に一緒に行こうよ」
「えっ…?」
「あ、いや、全然別に嫌ならいいんだけど…」
彼女は、笑って俺に言った。
「ありがとう、じゃあ、約束ね」
指切りを交わした。その指にはしっかりとした重みがあった。
「後ね、もう一つプレゼント」
佐藤さんは、俺の手を引っ張ると2階に連れ出した。
「このスタジオにしたのは理由があるの」
ベランダの窓を開ければ、―光り輝く夕陽の姿が。
水平線上に半分だけ隠れて、月の出番を待っていた。
オレンジ色の光は、海の真ん中を優しく照らす。
「すごいや…」
「ふふっ、なかなかの絶景だね」
「うん、すごい…」
俺らは、優しくその絶景を見守っていた。そして―
沈んだ太陽を追いかけるように月が顔を出した。
「蒼介」
「ん?どうした?」
「私の事、名前で呼んでよ」
「名前?…菜乃花…さん」
「呼び捨てで、呼んで?」
今が夜で良かったとつくづく思う。
「…菜乃花…」
「これからもずっとそう呼んでよ、蒼介」
俺の顔は、さっきの太陽よりきっと赤いだろう。
「仕方ないから、呼んであげるよ」
“仕方ない”なんて、嘘だ。心が張り裂けそうなくらい喜んでいる気がする。
「でもね、約束もあるの」
「や、約束…?」
彼女と、菜乃花といくつ約束を交わしただろう。
「それはさ…」
それは、今この場で、どんな言葉より言ってはいけなかったであろう言葉。
「私を、好きにならないでね」
「え…っ…?」
俺だって、相手のことを気遣うことくらい出来る。
それに、恋なんてめんどくさいもの絶対にしない。
駆け引きだの、片思いだの、失恋だの。めんどくさい事ばかり詰まったテストより嫌なもの。
俺は、彼女の放った言葉で気付いた。
―今、初め目の恋というものをしている―と。
「す、好きになるわけないだろ。
さっき言った通り、君を好きになるなんて地球が反対周りになっても有り得ないよ」
「…そっか。だよね、ごめんね、急にアホらしいこと言って」
あの時とほとんど変わらない笑顔。
でも、その笑顔に微かに苦しみを感じたのは、俺の勝手なエゴだろうか。
「そうだよ、全く、アホな人だね」
「ふふっ、君の料理が美味しすぎて、文句を言えなくなっちゃった」
これから、何を求めて彼女に料理を作ればいいのか。俺が好きだったのは、彼女の何の屈託もない笑顔だ。
じゃあ、これから彼女は本当は、俺の事をなんとも、思っていないと思いながら、料理を振る舞うのか?
その前に、俺にシェフを頼んだのはなぜだ?
俺以外にも、女子で料理が出来そうな人は、クラスにたくさんにいると思う。
彼女の性格なら、誰でも話せるだろう。
俺は、なぜ頼られた?なぜ、必要とされた?
月に照らされて、普段は流さない“涙”というものが、俺の頬をつたった。
俺は、自分のことで今精一杯だった。
隣で、彼女も泣いていたという事実を知る由もない。
彼女が俺にくれたのは、謎の招待券。
「これは…あの有名なお寿司屋さんの招待券!?」
そう、あの、予約が2年先まで埋まっているという有名なお寿司屋さん。
「私、お寿司苦手でさ、もらっちゃったし」
彼女は、俺にはにかんで見せた。でも、俺は知っていた。
「これ、本当にもらいもの?俺の浅はかな知識だけど、これさ、2年先まで予約が埋まってるようなお店だから、多分もらいものじゃないと思うんだ。
…君が取ってくれたんでしょ?」
「…さすが、私の専属シェフだね。そう、蒼介の料理が美味しかったら渡そうと思ってて」
招待券には、2年後の予約日が記載されていた。
「2年後に一緒に行こうよ」
「えっ…?」
「あ、いや、全然別に嫌ならいいんだけど…」
彼女は、笑って俺に言った。
「ありがとう、じゃあ、約束ね」
指切りを交わした。その指にはしっかりとした重みがあった。
「後ね、もう一つプレゼント」
佐藤さんは、俺の手を引っ張ると2階に連れ出した。
「このスタジオにしたのは理由があるの」
ベランダの窓を開ければ、―光り輝く夕陽の姿が。
水平線上に半分だけ隠れて、月の出番を待っていた。
オレンジ色の光は、海の真ん中を優しく照らす。
「すごいや…」
「ふふっ、なかなかの絶景だね」
「うん、すごい…」
俺らは、優しくその絶景を見守っていた。そして―
沈んだ太陽を追いかけるように月が顔を出した。
「蒼介」
「ん?どうした?」
「私の事、名前で呼んでよ」
「名前?…菜乃花…さん」
「呼び捨てで、呼んで?」
今が夜で良かったとつくづく思う。
「…菜乃花…」
「これからもずっとそう呼んでよ、蒼介」
俺の顔は、さっきの太陽よりきっと赤いだろう。
「仕方ないから、呼んであげるよ」
“仕方ない”なんて、嘘だ。心が張り裂けそうなくらい喜んでいる気がする。
「でもね、約束もあるの」
「や、約束…?」
彼女と、菜乃花といくつ約束を交わしただろう。
「それはさ…」
それは、今この場で、どんな言葉より言ってはいけなかったであろう言葉。
「私を、好きにならないでね」
「え…っ…?」
俺だって、相手のことを気遣うことくらい出来る。
それに、恋なんてめんどくさいもの絶対にしない。
駆け引きだの、片思いだの、失恋だの。めんどくさい事ばかり詰まったテストより嫌なもの。
俺は、彼女の放った言葉で気付いた。
―今、初め目の恋というものをしている―と。
「す、好きになるわけないだろ。
さっき言った通り、君を好きになるなんて地球が反対周りになっても有り得ないよ」
「…そっか。だよね、ごめんね、急にアホらしいこと言って」
あの時とほとんど変わらない笑顔。
でも、その笑顔に微かに苦しみを感じたのは、俺の勝手なエゴだろうか。
「そうだよ、全く、アホな人だね」
「ふふっ、君の料理が美味しすぎて、文句を言えなくなっちゃった」
これから、何を求めて彼女に料理を作ればいいのか。俺が好きだったのは、彼女の何の屈託もない笑顔だ。
じゃあ、これから彼女は本当は、俺の事をなんとも、思っていないと思いながら、料理を振る舞うのか?
その前に、俺にシェフを頼んだのはなぜだ?
俺以外にも、女子で料理が出来そうな人は、クラスにたくさんにいると思う。
彼女の性格なら、誰でも話せるだろう。
俺は、なぜ頼られた?なぜ、必要とされた?
月に照らされて、普段は流さない“涙”というものが、俺の頬をつたった。
俺は、自分のことで今精一杯だった。
隣で、彼女も泣いていたという事実を知る由もない。
