次の土曜日…
駅前に10分前に到着した俺は佐藤さんを待っていた。
格好はシンプルなジーパンに長袖シャツにした。
太陽も出ているし、暖かくなりそうだ。
「おっはよー!蒼介」
「おはよう、佐藤さん」
ハイテンションな彼女は、まだ春だと言うのに短パン姿。
「今日はどちらへ?」
「はい、今日は鎌倉へ」
「はい?鎌倉?」
俺らがいるのは、東京のど真ん中である新宿。
鎌倉へは、電車で1時間くらいだ。
「電車で行くの?」
「もちろん、そうでーす。あ、これ」
「はい?」
彼女が俺に渡したのは、交通用の電子マネー。
「蒼介が私と一緒に出かける時にのみ使って良いものとします」
「わ、分かりました」
俺らは、電車に揺られて目的の場所に向かった。
暖かな太陽が俺の背中を照らす。ふと、横を見れば、佐藤さんは鼻歌を歌っていた。誰よりも楽しそうで、何の悩みもなさそうな女の子。
「ん?蒼介、私の顔なんか付いてる?」
「いや、何にも付いてません」
「えぇ〜?私にもしかして…」
「そんなわけないでしょ、地球が反対周りになっても有り得ません」
君を好きになるなんて、ありえないだろう。
佐藤さんみたいな性格の子が、1番苦手なのだから。
鎌倉に着けば、目の前に広がる海に心が癒される。
「うわぁ…凄いや…」
「ふふっ、今回のスタジオもなかなか凄いよ」
彼女は、近くを走っていたタクシーを止めてこの前のように住所を伝えた。
「佐藤さんはさ、何者なの?」
「んー?明るくて、可愛い女の子だよ?」
「いやいや、そうじゃなくて」
「サラリーマンのお父さんに、パートのお母さん、大学生のお兄ちゃんの4人家族だよ?」
至ってシンプルな家族構成。そのお金はどこから持ってきてるんだか。
「ほーら、着いたよ」
タクシーから降りると、そこにはまたもや豪邸が。
「こ、これを俺のために借りたの…?」
「まぁ、そうゆう事になるね」
満更でもなさそうに答えると、彼女は鍵を開けた。
「キッチンに来て」
キッチンを見れば、またまた大量の材料が。
「これ、全部使っていいの…?」
「うんうん、いいよーん。あ、今日はね、ケーキを作ってもらいます」
「け、ケーキ…」
「ちなみに、使えない材料は…フルーツ全般です」
「ふ、フルーツ!?」
ショートケーキと言ったらイチゴ、タルトと言えば、イチゴにブルーベリー、フルーツケーキならフルーツ全般。
―彼女は、一体何がしたいんだ…?
「じゃあ、制限時間は30分ね。冷やす時間は別として…よーい、ドン!」
なぜだか、この前より時間が短くなっていることに、腹が立ったけどそれは置いておこう。
とりあえず、無難なチーズケーキにしよう。
母さんに1度だけ作ったことがあって、何となくコツは分かっていた。手早く、パッパと済ませていく。
そんな時に、彼女はスマホ片手に鼻歌。本当、調子の良い奴だと思う。
「私、トイレ行ってくるー」
「女の子なんだから、黙って行きなよ」
あと少しで完成しそう。中々上手く完成したと思う。
「今日のケーキって、もしかしてチーズケーキ?」
「うん、なんで嫌いだった?」
「んー…本当に申し訳ないけど好きじゃなくて…」
「そっか、ごめん、作り直す」
“先に言ってくれれば良かったのに”と思ったけど、まず、俺が勝手に決めたのが悪い。
「チョコレートケーキなら、好き?」
「うん、チョコレートなら大丈夫」
「分かった、作り直すから時間かかっちゃうけどいいかな」
「うん、でもちょこっとお急ぎめでお願いします」
もう一度、最初から作り直し始めた。チョコレートケーキはそんなに得意じゃないけど、またあの喜ぶ顔が見たいと思う自分がいた。
チーズケーキより、少し時間がかかったけどなんとか完成。時間は…まぁまぁ大丈夫だろう。
「出来たよ、ケーキ」
「うわぁ…!」
チョコレートケーキの上にはハーブをちょこんと置いた。…だいぶ質素になったけど。
「どうぞ、召し上がれ」
白のお皿に取り分けたチョコレートケーキを丁寧に置いてあげた。先のとがったフォークでゆっくりと刺す。
ゆっくりとプリンセスみたいに食べる佐藤さん。
「お、美味しい…!こ、これ!お店で出せる!!」
「ほんと?良かったぁー失敗したと思った」
「ううん、何にも失敗してないよ。本当に美味しい」
幸せそうな顔で俺の料理を食べる佐藤さん。
諦めてた夢に一瞬だけ火が灯った気がした。