「す、すみ、ませ……もう、柚葉さんに、近づきませ……」
「当たり前だ。二度はないぞ?」
「ははは、はい……!」

 友樹はこっちが驚くほど狼狽えながら、顔面蒼白で逃げるように立ち去った。
 そんなに震えあがるほど碧のことが怖かったのかな?
 
 私が見あげると、碧はまだ不機嫌そうに友樹が去った方向を睨んでいた。

「碧……?」

 声をかけると碧はすぐに私の肩を抱き寄せた。

「おまえな、別れた男にほいほいついて行くなよ」
「ごめん。話があるって言われたから。ここなら人目もあるし大丈夫かなって」
「わかってる? さっき何されようとしたか」

 私はばつが悪くなってうつむいた。

 友樹は外であんなことするような人じゃなかったのに。
 それとも私が知らなかっただけなのかな?

 本当はキス以上のことがしたかったなんて、今さらそんなこと……。
 ちゃんと話し合えばよかったのかな。

「柚葉、帰るぞ」
「うん」

 碧は私の手を握ってさっさと歩きだした。
 たぶん、まだ怒ってる。
 だけど、私は不安よりも安堵の気持ちが(まさ)っていた。

 ちゃんと碧と向き合わなきゃいけない。