「ね、名前なんていうの?」
「あ、えと……ゆ、ゆりか」

とっさにでたのは、あたしが昔から好きなゲームのお姫様の名前だった。

さすがにほんとの名前なんて、いえない。
……ていうか、今更だけど声とかでばれないかな?
でも名前聞いたってことは大丈夫っぽい?

「ゆりかちゃんか。何年生?」
「さ、三年」
そう告げると、高斗はあっれー?と首を傾げ、不思議そうな顔をする。

え。なんで。

「俺記憶力には自信あったのになあ」
「え?」
「三年生にゆりかなんて名前、いたっけと思って」

ぎっくぅー。
冷や汗がでそうだ。

うちの学年にゆりかなんて子、いないんだ。

ある意味よかった。
あとから高斗がその子になにか聞いたら困るし。

……てかうちの学年、九クラスあるのに全員覚えてるなんてすごいな。

「あたし、目立たないから」
恥ずかしさで顔が合わせられなくなって、指遊びをしてしまう。
「そうなんだ? いつもはそんな化粧とかしてないん?」
「うん。今日が初めて」
「去年も一昨年もこのイベント参加してた?」
「ううん。今年だけ。最後だからと思って」
ふうん。と高斗が相槌をうって、訪れた一瞬の間。
会話を続けなきゃ、とあたしは質問を探す。
「三好君は毎年参加してるの?」
「高斗でいいよ。俺はなんだかんだおしつけられっからなー」
「人気者だもんね」
「……うーん、どうかな」
「――え?」
ぽろりとでた言葉に、目を瞠って高斗をみると、へへ。と高斗がぎこちなく笑った。
「俺広く浅くだからなー。押し付けやすいだけじゃない?」
「そんなことない!」
否定した声は、自分でもびっくりするくらい大きかった。
高斗なんて驚きすぎて引いてる。でも、そうなるとあたしは引けなかった。
「た、かとはみんなを引き寄せるの。いつも周りにはだれかいて、みんな笑顔で。それに、高斗は責任感あるから頼りにしてるんだよ!」
目をぱちぱちさせている高斗と視線がぶつかって、あたしは思いっきり下を向いた。

なにあたし!
これじゃあ、もろばれる! あたしが高斗好きなの気付かれる!

「……て、みんないってる」

蚊が鳴くような声でつぶやいてみるも、ただの言い訳にしか思われないよね、これ!

静まる雰囲気とは対照的にあたしの体は熱くなっていく。

「……ありがと」
あたしと同じくらい小さな声の高斗を盗み見ると、顔が真っ赤だった。