ぎゅっ。と手を握りしめて、高斗から目を離さない。
きっと、ばれない。
自分でも、一瞬誰だかわからないのに中学から話していない高斗が気付くなんてありえない。
恥ずかしいのも、一回きり。
明日からまた、なにくわぬ顔で過ごせばいい。
場内を盛り上げている高斗を見ながら、決心がにぶる前に早く早くとはやる心をおさえつけた。
司会者である高斗は、進行役だからしばらく一人になんてならない。
多分、自由時間かなんかがあってそこで一旦ひっこむはず。
そのときとりあえず探してみて、そこで無理だったら帰りにでも。
どこでもいいんだ。
“今日”なら。
“あたし”じゃないなら。
そこからビンゴ大会やらステージパフォーマンスやらがあってから「そのとき」はきた。
「“trick or treat”の時間です。お互いにいいあっていきましょう! 初対面でも全然オッケー。じゃんじゃんやっていって、お菓子多くもらってねー」
高斗が舞台袖に引っ込んで、体育館内は少し明るくなる。
周りはみんなふざけ半分でtrick or treatとお菓子を配りあっていた。
あたしは知り合いがいないせいで特にだれにも話しかけられないけど。
とりあえず高斗を探さなくちゃ。
舞台袖のほうまでいけば出てくるかな?
そう思って歩を進めたあたしの耳に、「――あ、高斗だ」と可愛い声が届いた。
あたしの足は自然と止まって、声の主の視線の先を追いかける。
そこには、昔から変わらない高斗の姿。
その高斗に吸い寄せられるように男女関係なく寄っていく。
いつのまにか輪の中心にいる。それが、高斗のすごいところだ。
「たかとー。トリックオアトリート!」
「むりー。俺、実行委員だからお菓子もってねーし」
「実行委員のくせしてもってないのー?」
「うるせー。俺はもらう専門なのー。はい。トリックオアトリート」
「ないでーす」
「じゃあ首に噛みついてやるぞ」
ぐわあ。と両手をあげて襲いかかる仕草をする高斗に、げらげらきゃっきゃ男子も女子も笑う。
――ああ、やっぱり変わらない。
ああやって女子にも男子にも囲まれる高斗も。
そんな高斗をあたしが見つめているだけしかできないのも。
いつのまにか、あたしと高斗の立ち位置は、こんなにも遠くなっていて。
やっぱり外見を変えても、一緒なのかな?
あたしはあの輪に割りこむ勇気もないイクジナシのままで。
見ることしかできない、なんて。



