朝はひどいものだった。
化粧は落ちてなくて顔はよれよれだわ、髪はぐしゃぐしゃだわ、服はしわだらけだわ。
お姉ちゃんには肌を大事にしなさいとさんざん怒られ、お母さんには呆れられ。
とりあえず聞き流して、ようやく解放されたあとにシャワーを浴びた。
少しスッキリして鏡を見ると、もうそこにはいつものあたしがいた。
目は幸いにもそんなに腫れてなくて、少し安心。
こんなに気分が晴れなくても、慌ただしくても、学校にはいつも通りいかないといけない。
重い足取りのまま、あたしは学校へ行った。
教室では昨日のハロウィンの話をしている人もいたけど、特にあたしはなにもいわれなかった。
気付かれていなかったことには心底安堵した。
「はあ」
窓際の自分の席に座って、教室の窓から外を眺めてため息をつく。
空はすっかり色を変え始めていて、茜色に染まっていた。
なんとなく帰るのが嫌で、ただ一人で教室にいる。
運動部が元気よく走っているのを眺めながら頭では昨日のことばかりが駆け巡っていた。
……もう、あんなに近くにいること、できないんだなあ。
低くなった声、大きくなった身体つき、それはあたしが知らない高斗だった。
でも笑顔も優しさも何一つ変わってなかった。
「これで、いいのかな」
よかったのかな。
あたしがゆりかだといわないまま、卒業までなにもしないまま。
宙ぶらりんな恋で終わって、いいのかな?
「やっぱ、欲張りだなあ」
一昨日までは話せるだけでよかった。
イクジナシのあたしが高斗と話せるだけで大きな進歩だった。
だから、一日だけ魔法をかけたのに。
魔法が残ってるのかな。
話したいの。
声が聞きたいの。
笑顔が見たいの。
まぶたの裏には高斗しかいなくて。
昨日よりも今日のほうがずっと、ずっと好きで。
「たかと」
いつものあたしの声なのに、なんでこんなに胸がしめつけられるの。
愛しくなるの。
でも同時にやっぱり切ない。つらい。
“いつも一生懸命で優しい子、だよ”
紅色に染まった頬を思い出すと、やっぱりなにもいわないほうがいいと思う。
もうわかったもん。
宙ぶらりんな恋なんかじゃない。これはもう、終わってる恋なんだって。