Magic Halloween

「ごめんね、ゆりかちゃん」
「え、高斗が謝る必要なんてなにもないよ！」
きっとこんな風にいつもヤツの尻拭いをしてたんじゃないかと思うと気の毒になった。
「うーん。彼女たちも悪い子じゃないんだけどね」
苦笑いする高斗に、あたしはひきつり笑いをするしかない。
「まー、透と付き合うとかしなければなにもしてこないとは思うよ」
「それは絶対ない！」
きっぱり断言すると、高斗は目を丸くした後、吹き出した。
「すごい嫌われようだなあ」
「だってめっちゃからかうし！」
「いつもはあそこまでからかわないんだけどね。気に入られたのかな」

まったくうれしくない！
平穏な学校生活を送りたいあたしにとってはぜんっぜん歓迎されない事案だ。

「まあ許してやって。またなんかいわれたら俺に頼っていいよ」

届いた言葉を理解するのに数秒費やして。
理解した途端、嬉しくて胸が弾む。

「あ、ありがとう……！」

あたし、こんな幸せでいいのかな。
高斗と話せて、頼っていいよっていわれて。

――今、聞いてもいい？
この姿なら、聞いても大丈夫、なのかな？


「あの、さ」

高斗の瞳が、あたしを射る。
その目に映されるのは耐えられなかった。

自然と目線は落ちるし、耳たぶが熱かった。

「すきなこ、いるんだってね」

ねえ、たかとはいま、どんなかおしてる？

「ああ、うん」
ふいと、顔を背けられたのがうつむいててもわかった。

やっぱり、そうなんだ。

胸がずきんずきん痛い。
さっきより、ずっとずっと。

「どんな子なの？」
ぱっと顔をあげて、明るくいってみる。
声は、震えてたかもしれないけど。
高斗はあたしの顔を見ないまま、照れくさそうに頭を掻いた。
「んー。いつも一生懸命で優しい子、だよ。ていうか、透に聞いたの？」
「うん。そうだよ。あいつがいってたの」
「ほんっとおしゃべりだな……」
ちらりと視界に入ったのは暗くてもわかる、紅色の頬。

――もう、耐えられなかった。

「あたしも、そろそろあっち帰ろうかな。もう少しで、お開きだよね？」
立ち上がって、上を向いて両手を広げる。
そうしないと涙がこぼれそうだったから。

「あ、やべ。俺も準備しなきゃ」
ぎゅっ。と一度目をつむって、つばを飲み込む。
自分からこの時間を閉じてしまったことへの後悔が襲ってくる。
「後の時間も、楽しんでいってね」
「うん。ありがとう」
立ち上がって伸びをしてから、高斗はにこっとあたしに笑いかけた。
「今日、話せて楽しかった。また学校で会ったら話そうね」
それは、なんでもない言葉なのにあたしは言葉が出なかった。


また、学校で会えたら。
会うことなんてできない。
明日になれば、地味なあたしに戻るから。

あたしの魔法は、たった一日。