「きみ、さっき高斗と話してたでしょー?」
「えっ」
「とぼけてもだめだよ。そんな目立つ格好してるの君しかいないもん」
にこにこ笑ってるのに、目は笑っていなかった。

なにこの人。
いきなりなに。

困惑するあたしに彼はさらに衝撃的な言葉をいった。

「でさー高斗のこと、スキでしょ?」


はあ!?

いきなりさされた図星はあたしを動揺させる。
反射的に顔の熱があがって、彼はそれを見逃さなかった。


「耳真っ赤。やっぱりか」
はりつけた笑顔のまま、ぐいっと彼の端正な顔が近づく。

距離近いな!!

「でも見る目あるよ。あいつはいいやつで終わっちゃうタイプだからなー」
「はあ」
早く離れてほしい。
「てーか、見たことないんだけど何年生?」
「……三年ですが」
「えっ、あ、そっか。普段化粧したことないタイプか。名前は?」
「――ゆりか」
「ふーん。ゆりか、忠告しといてあげるよ」

いきなり名前呼びだ。
なれなれしい。

「あいつ、好きな子いるよ」

ひょうひょうと何事もなくいった彼の言葉は、簡単にあたしをどん底に突き落とした。

――え?

よっぽどあたしの顔がきょとんとしていたんだろう。
彼はあたしの頭をぽんぽんと撫でて、優しい笑みを浮かべた。

「それでも、好きなの?」

でも問いかけは残酷で。
一瞬で頭の中、まっしろになる。

「……まずあたしは三好くんを好きなんていってないですし、もしそうでもあなたには関係ないので」
「強情だね。そんな泣きそうな顔しながら」
震える声に、絞りだした声はあっけなく嘘だと気付かれて。

ただ、なんであたしは、こんなこといわれてるんだろって思った。

「ていうか、なんでそんなことあたしにいうんですかっ」
「報われない恋だし、早めにあきらめたほうがいいよ。あいつの片思い、長いし」

そんな、簡単に。
なんで話したこともない人にそんなこといわれなきゃいけないの。


ぱちん。と渇いた音が体育館に響いた。
我に返ったのも、その音。
気づいた時には平手打ちの反動で横に顔を向けている彼の姿。

あ、やばっ。

「――ごめんなさい」

彼はなにもいわなかった。
だから、なにか言われる前に続けた。

「でも、簡単にそんなこといわないでください」

あきらめられる恋なら、こんなことしてない。
好きで好きで仕方ないから、外見まで偽ってこんなことしてる。
あたしの片思いだって、長いんだから。

気付けば周りがあたしたちに注目をしていた。
当たり前だ。ただでさえ平手打ちなんて目立つのに、ぶった相手は学年で有名な東野くんだ。
悪目立ちしすぎる。

あたしはその場にいたたまれなくなって、踵を返してその場から駆け出した。

「大丈夫?」
「頬、少し赤いよ?」
後ろでおそらく彼を心配するであろう女の子たちの声が聞こえた。
心なしか殺気だった視線も感じたけど、振り払うように無視して逃げた。