「うっしゃ。これでわかんない、よね?」

くるりと鏡の前で一回転。
目の前のあたしは、自分でもだれだかわからない。

化粧って怖い。
こんなにも顔が変わるんだ。
マスカラが視界にちらついて変な感じ。

「いいんじゃない? あんただってわかんない」
ベッドに腰を下ろして、足も腕も組んでいるお姉ちゃんがにんまりと妖艶に笑う。
「化粧ありがとー。助かった」
「いいよ、べつに」
お姉ちゃんはベッドから腰を上げて、目をキラキラさせながらあたしの顔を覗き込んできた。
「それより、どしたの? 毎年ハロウィンのイベントなんていってなかったくせに。ん? 今年はどした?」
「いや、最後だから! 高校生活最後のハロウィンだから、いこうかなって!」
「へぇー。好きな子でもできた? あ、彼氏?」

ぜんっぜん話聞いてない!
どうやらお姉ちゃんは納得する理由以外お耳がシャットアウトしているようだ。

「違うから!」
「ま、いいけどね。彼氏いるなら家つれてきてねー。じゃ、バイトいくわ」
にんまり笑顔のまま、お姉ちゃんはコスメボックスをもって部屋から出てった。

あれ絶対誤解してる!
彼氏なんて、いないっての!
こんな地味な女子にできないから!

「……ふぅ」

もう一度、鏡の中の自分と向き合う。

がっつり盛った長いまつげ。
目じりまで濃いアイライン(猫目にみえる)。
紫のアイシャドウ。
ピンク色のチーク。
ぷっくりしたキラキラの唇。

今日は地味なあたしじゃない。
こんなにも変えてくれたお姉ちゃんに感謝だ。
さすが専門学生。

とんがり帽子、ずれそう。


10月31日。ハロウィン。

お祭り好きで有名なあたしの学校は毎年この季節になると、生徒会主催で自由参加型のハロウィン仮装パーティなるものがある。
みんな思い思いの格好をして、パーティに参加する。大体軽い仮装だけど。

そこであたしは、この日のために新調した黒の魔女っ子の格好でいこうと思う。
腕とデコルテ部分は花柄レースになっていて、スカートはふわっとパニエが入ってるかのようになっている。丈は膝下だ。


参加したことはなかったのだけど、今日だけは。
今日だけは、参加しようと決めていた。

学校から徒歩一分の場所に住んでいてよかった。

他人にこれがあたしって知られるなんて、想像だけで死にたくなる。

ぱちんっぱちんっ。
二回ほど勢いよく頬をたたいて気合をいれる。

いざ、出陣だっ。