恋愛偏差値が低すぎる!!

まあ、ああ言われたら仕方がない。

ずっと気になっていた、天才の脳を形成する基盤が見られるかもしれないんだ。
目の前にずっと売り切れていた漫画の最終巻を落ちてきたら、誰だって飛びつくだろう。どんな条件を出されても、構わず飛び込むだろ普通に。

「にしてもデカすぎるだろ」

自分よりも遥かに高くて幅広い鉄製の壁の前で、軽く息を飲む。
芦田先生に言われて、思わずタクシーに飛び乗った。この目で立川葵を捉え、彼の懐に入り込む。相手が隙を見せてから、どんな参考書を使っているのか盗み見るつもりだった。
だが、ここに来てその勢いはほとんど消え失せた。

簡単に言えば、怖気付いたのだ。

白百合学園高等学校を受験すると中学の担任に言ったとき、

ーー玉の輿でも狙ってるのか?

とはやし立てられたことを思い出す。
確かに白百合学園高等学校には、附属校として幼稚舎、中等部があり、中でも幼稚舎は倍率が高く、それなりに高貴な家柄でないと受からないと聞いたことがあった。そりゃそうだ。そこで受かってしまえば、高卒は確定事項になるわけで、お金に余裕がある家庭は迷わず幼稚舎受験させるだろう。
そこで受からなければ次は高等部。高等部から外部生が認められ、比率は外部生が2割。偏差値を下げないために、指定校推薦という餌を巻き、頭脳明晰の奴らは、こぞってその餌目当てでやってくる。私もその一部だ。
あの時はまだ中学に上がりたてで、自分の偏差値すら出ていない状態だったから、あの爺さんは、こいつ金に目がくらんで、無謀なこと言ってやがると笑っていたのだろう。私もまさかここまでの規模を持つ、金持ちが居るとは思いもしなかった。