バレンタインデーがキライだ。

 愛だの恋だのにうつつを抜かし、ぎゃあぎゃあさわぐヤツらがまず、キライ。

 静かなはずの教室は、めずらしくうるさい。休んでしまえばよかったな、なんて気持ちが胸をよぎった。

 むすっとした顔をしてしまっていたのか、あまりにも優しい目線を感じてそちらを見れば、サトル。イヤになってぷいっと目をそむける。

「チョコ」

 ずんずんっと近づいてきたかと思えば、手を出してそれだけ言って止まる。

「何その手」
「くれないの?」
「あげるわけないでしょ。バレンタインなんてキライだし」
「そう? 友チョコくらいあるかなって」

 言いきるか、否かのスキマであからさまに見えてシュンと落ち込む。チョコレート一枚、一粒で恋心を伝えるなんて、信じられない。しかも、それを受け取れると自信満々のサトルも信じられない。ありえないでしょ。友だちだからって。

「よしちゃんならくれるかなぁと思ったんだけど」
「サトルにくれる女の子たちなんていっぱいでしょ。あいつらに言いなよ」

 遠い目をしながら、キャッキャっと席ではしゃぐ女の子たちを見つめる。

「そういうんじゃないけど。今日一緒に放課後帰ろ」
「一人でいたほうがチョコレート貰えるんじゃないの?」
「いいから」
「はいはい」

 空回りする可愛げのなさが、自己嫌悪を起こす。

 別に、チョコレートのひとつくらい用意してあげればよかった。そう思うくらいにサトルの耳もしっぽも垂れ下がってる。