颯サイド

〇控室

颯(大人も、女も、芸能界もみんな嫌いだ)

ヘアメイクさんにメイクをしてもらっている颯。鏡に映る自分を見る。

颯(一番嫌いなのは俺)

第七話

〇過去描写
〇大きなビルの前

綾野母「颯、お名前いえる?」
三歳の颯「綾野颯です! 三歳です!」
綾野母「よくできました!」
母に褒められてうれしそうな三歳の颯。

綾野母「颯はスーパースターになるために生まれてきたのよ。じゃあ行きましょうか」
綾野母、颯の手をつないでビルの中に入っていく。

モノローグ(物心ついたときは当たり前のように芸能活動をしていた)

ピッカピッカブウタンで豚の着ぐるみと踊っている颯。
子役の宣材写真。フォトスタジオのキッズモデル。タウン誌のモデル。
※テレビではほとんど活躍していない無名子役の活躍をいくつか。

 
〇颯の家・お昼

お昼ご飯を食べている颯。幼稚園児になっている。
綾野母が届いたばかりの封筒を切っている。
封筒の中の書類を読んで、母の表情が変わる。

綾野母「なんで……!!!」
颯、怯えた表情で母を見る。綾野母、書類をびりびりに破く。びりびりにやぶかれた書類には「オーディション不合格」の文字。

綾野母「颯、来なさい。練習するわよ」
颯「え、でも、僕、ごはん」
綾野母「誰のせいでこうなったと思ってるの!」

綾野母ヒステリックに颯を睨む。怯えた表情の颯。

颯「ひっ、ごめんなさい」
綾野母「台詞が覚えられないからよ」
次のオーディションの台本を開く綾野母。

時間経過。夜になる。

綾野母「あなたはスーパースターになるのよ」
へとへとでお腹が鳴っている颯の顔をうっとりと撫でる。
綾野母「私そっくりの可愛い顔……愛してるわ」
ヒキ・綾野母、颯を抱きしめる。
チェストには綾野母がかつて売れないモデルや女優をしていた頃の写真が飾られている。


〇夜・颯の部屋

両親の言い合う声で目が覚める颯。

〇廊下
颯、リビングの様子を廊下から見ている。

綾野父「幼稚園をやめさせるって正気か?」
綾野母「ええ。レッスンの時間が足りないの」
綾野父「いい加減にしないか。自分の夢を颯に押し付けるな!」

そのまま激しい口論になる。

綾野母「滅多に帰ってこないくせに!」
綾野父「お前の遊びとは違う。会社の経営がかかっているんだ」
綾野母「そんなこと言って女と会ってるから遅いこと知ってるのよ!」

ヒステリックな母は部屋のものをなぎ倒していく。
颯耳をふさいでうずくまって泣いている様子。

・・

モノローグ(自分の分身に才能がないことを母は認めず、諦めなかった)
モノローグ(気持ちに応えようと努力を続けたけど)

ダンスレッスンをしている颯。
オーディション現場で演技をしている颯。(この時は小学生くらいになっている)

モノローグ(世の中には同じことを考える親子がたくさんいて)

オーディションを終えて、廊下に出ると出番待ちの親子がずらりと並んでいる。

モノローグ(現実はそんなに甘くなかった)

 
〇ドラマ撮影現場

台本を読んでいる颯(中学生くらい)
「男子生徒B--綾野颯」

モノローグ(十年たっても抜け出せないまま、まだこの醜い場所にいる)

主役女優(高校生くらい)を必死に口説いているプロデューサーを颯は死んだ目で見る。
その女優も有名な俳優陣には媚を売り、モブである颯たちのことはぞんざいに扱う。

本番を終えて疲れた顔で控室に戻ってきた颯。中から男女の声が聞こえてくることに気づく。
小さく扉を開けてみると、プロデューサーと綾野母がキスをしている。
颯、すぐにその場から走って逃げてトイレで吐く。
洗面所で手と口を洗う。口を拭いながら、鏡の中の自分を見る。

颯「あの女にどんどん似てくる」
憎々し気に颯は吐き捨てる。颯は母に似ている自分の顔が大嫌いだった。


・・

モノローグ(汚い営業の結果か、仕事が入ってくるようになった)
モノローグ(一度名前が売れれば次々と仕事が入ってくる)

スタジオで撮影している颯。女性誌のモデルの隣に立つ男性モデル役の颯。
台本を読んでいる颯(十七歳)
「山田ゆうじ――綾野颯」十番目くらいの位置の名前。
メインどころではないが、役名がつくようになっている。

女優「颯くん。久しぶりだねー、前共演した美香だよ♪」
以前颯をぞんざいに扱っていた女優の態度がガラリと変わっている。
今まで見向きもされなかった颯にいろんな女性が言い寄ってくるようになる描写。
颯、どの女性のことも冷めた目で見ている。

颯(今まで俺に見向きもしなかったのに)
颯(俺だからじゃなくて、活躍し始めた綾野颯だから……)

・・

◯颯の部屋・朝
朝目覚めた颯。小指の爪がすずらんになっていることに気づく。

颯「なんだこれ」
まだ寝ぼけている颯があくびをこぼすと、すずらんの花びらが目から落ちる。
颯、驚きながら鏡の前に移動する。自分の顔や身体を確認しているうちに胸に見覚えのないすずらんのあざがあることに気づく。

颯「……」
颯、スマホで【爪 涙 花びらに変わる】と検索すると
フローラシンドロームの警鐘ページがヒットする。【症状があればすぐに国立保健研究所に連絡を!】という文字。

モノローグ(フローラシンドローム。アピスと定期的にキスをしないと死ぬらしい)

◯国立保健研究所

綾野母「アピスは! 見つかるんでしょうね!?」
職員の山田の肩を揺さぶって叫んでいる綾野母。
山田「そちらは問題ありません。一日もあればアピスを探すことはできます」
綾野母「一日も!? 大丈夫なの!?」

その様子を冷めた顔で見つめている颯。
颯(このまま花に変わって消えるのもいいな)

颯(女とキスか……)
いいよってくる女たちや、母とプロデューサーのキスなどを思い出して気持ち悪くなってくる颯。


◯特別教室・朝

颯とすずがキスをしている。

颯「ごめん、俺もう行かなくちゃ」
すず「いつもありがとうございます。昨日みたいに私も行きますよ」

ニコッと笑うすずに、颯は優しい瞳を向ける。

颯(汚いものを知らない女の子)
颯(俳優の綾野颯じゃなくて、すずの綾野先輩でいられる場所)

すず「先輩、先出てください。私まだ朝の会まで時間ありますから」
颯「うん」
すず「漫画ちょっとだけ読んでいこうかな♪」

すず、ロッカーの漫画を選ぼうとかがむ。後ろ姿を颯はじっと見つめている。

すず「先輩? 行かないんですか?」
なかなか出ていこうとしない颯にすずが振り返って質問すると、颯もすずの隣にかがむ。そして、キス。

すず「不意打ちは禁止って言ってるのに」
颯「明日も会えないから」
すず「お仕事頑張ってくださいね」
笑顔を向けるすずに、名残惜しそうに颯は立ち上がって教室をでていく。
その後ろ姿を寂しそうな顔で見つめているすず。


◯すずサイドに戻る

◯海・昼・観光地らしい雰囲気
  
すず(突然ですが! 世は三連休! 希実とプチ旅行にきています!)
すずと希実、海を見て顔を輝かせている。

希実「えっ!なんか撮影してない?えっ、綾野先輩!?」
希実、ビーチで撮影しているのを発見してすずの肩を叩く。
ビーチの一角が貸し切られていて撮影現場になっている。その中には颯の姿もある。

すず(そうなんです。先輩のロケ撮影についてきています。
 三日かかるし、汗もかくからね)
颯の汗が花びらに変わってしまう様子のコマ。

すず(先輩が旅行をプレゼントしてくれて……)
希実に抽選で当たったから行こうと誘っているすずのデフォルメ絵。

すず(旅行は楽しみだけど――)

休憩中らしく、キャスト陣はリラックスしている表情。水着姿のリリが颯に身体をくっつけて楽しそうに話しかけている様子。

希実「あんまり見えないな〜」
希実撮影現場が気になる様子だけど、スタッフや野次馬に囲まれていてあまり見えない。
すず(撮影現場を見ちゃうと、先輩の遠さに気づいちゃうな)
希実「もう見えないから行こっか。ここ行きたいんだ」

ガイドマップを楽しそうに見る希実。すず笑顔に戻る。
すず(先輩のことは忘れて、旅行楽しむぞ〜!)

◯すずと希実、アイスを食べたり買い物をしたり温泉に入ったり楽しんでいる様子。

◯旅館・二人の部屋・夜

希実「はあ、いっぱい食べたー!」
部屋食を食べて満足気な様子の浴衣姿の二人。

希実「もう一回、温泉入りにいこうよ!」
すず「私もうお腹いっぱいで動けないよー」
すずへらりとした表情を浮かべながら、スマホにちらりと目を向ける。

希実「じゃあ私入ってくるね! 温泉大好き!」

希実、手を振って部屋から出ていく。
部屋から出たところで希実たちどまる。

浴衣姿の颯とリリが歩いているのを見つける。
希実(え!宿も一緒だったの、ラッキー♪)
興味津々で隠れて二人の様子を見ている。

リリ「私の部屋遊びにきてよ」
颯の腕を組もうとするリリ、颯それをかわす。
颯「俺、撮影の前の日は寝たいんで……」
そしてリリの方を見向きもせずにすたすた去っていく。

希実(リリのことも相手にしないなんて颯先輩かっこいい〜)
いいものをみたといった様子で希実、温泉の方に向かっていく。

リリ「……」
一人取り残されて不服そうな顔のリリ。
リリ(あれ、あのこ……どこかで見た)
自分の部屋から出てきたすずを見て、考えこむ表情のリリ。


◯颯の部屋・旅館

すず「失礼しまーす」
小声でひっそり部屋の中に入るすず。

すず「うえっ」
部屋に入った瞬間に颯に抱きしめられて驚くすず。
颯、すずを抱きしめて満足気な顔。

すず「びっくりしましたよ」
颯「疲れてたから充電」

すず(浴衣姿の先輩もかっこいいなあ)
すず、浴衣姿の颯にときめく。颯も黙ってすずを見て耳が赤くなっている。

颯「友達は?」
すず「温泉にもう一回入るみたいです」
颯「じゃあもう少し一緒にいれる?」
すず「はい」

颯、すずの手を引いて部屋につれていく。
もう食事が下げられていて布団が置かれている部屋。
すずドキドキする。

颯、布団の近くに座ると隣に来るようにすずを促す。
すず緊張しながら颯の隣に座る。

颯「キスしてもいい?」
すず、真っ赤になる。
颯「不意打ちは嫌って言ったから」
すず(これはこれで緊張する……)
それでも素直に目を閉じるすずの姿に颯も照れる。

隣に並んでゆっくりキスをする。

すず(やっぱり先輩のことが好き)
 
一度唇が離れて、二人の目が合う。

すず(こうしていられるのもあと少し)
 
引かれるように二人とも顔を近づけてもう一度キスをする。

すず(偽物の彼女みたいな気持ちを許してください)

もう一度キスしようと唇を近づけると、部屋をノックする音が聞こえる。
リリ「颯くーん!」

すず(た、たいへん……!)
すず焦って布団に潜り込む。
すず(せ、先輩もはやく!)
すず颯を布団に引っ張りこむ。

颯「……」
颯、すずを見ながら面白そうな顔をしている。

リリ「あれ部屋間違えてた」
去っていく音。

布団の中で抱きしめあっている二人。
くすくす笑っている颯。
颯「鍵かかってるから大丈夫だよ」
すず「……!」
ハッとして赤くなるすずを見てもっと笑う颯。

すず(先輩の笑顔、初めて見た)
すず(じゃなくて、この状況……!)
すず「帰ります!」

すず布団から出ようとするけど、しっかり颯に抱きしめられている。

颯「帰したくないなあ」
口角をあげて、すずの頬を手のひらで包み込む颯。すずドキドキした表情。