〇特別教室・昼

すず「今日もよろしくお願いします!」
真面目に気を付けをするすず。目を瞑ったすずに颯はキスをする。
すず(あの日から綾野先輩と秘密のキスが始まった)

第4話

〇回想

すず(あれから十日ほどたった)
二人がキスしているコマ

すず(朝早く登校したり、お昼休み、放課後。)
二人がいろんな時間にキスをしていることがわかる数カットのコマ

すず(先輩は忙しいし、周りから怪しまれないようにキスだけ済ませてすぐに解散する)
キスの後、すずがすぐに部屋を出ていくのを颯が見守っている

すず(どうやらフローラシンドロームは定期的にキスをすればいいみたいで。だから土日はお休み。平日に一日一回この教室でキスをすることになっていた)


〇特別教室・夕方

すず(そんなわけで今日も私は綾野先輩とキスするためにいつもの教室で待っている)
夕方の教室にすず一人。すず、時計を見上げる。十六時。スマホを見る。

颯『ごめん、長引いてて少し遅れる!』土下座しているゆるきゃらのスタンプ。
すず(もう少しかかりそうかな。あ、そうだ!)

すず嬉しそうな顔でカバンから漫画を取り出す。花蜜病の漫画。
すず「他人事に思えなくなって自分でも買っちゃったんだよねえ。三巻からはまだ読めてないから、今読んじゃおう♪」
すずわくわくした表情で漫画を開く。机の上には、三、四、五巻が置かれている。


※時がたった描写


すず「ん……」
すずは眠っていた。目をこすりながら開けると、

すず「えっ、颯先輩!?」
颯「あ、おはよう」
すずが起きたことに気づいてこちらを見る。すずの隣の席に颯が座っていて、すずの漫画を読んでいた
すず慌てて時計を見上げると、十七時。

すず「ご、ごめんなさい! 寝ちゃってました!」
颯「いや、謝るのは俺の方だろ。遅れてごめん」
颯は頬杖をついて、すずを見ている。

すず「起こしてくれたら……って私の寝顔見ちゃいました?」
颯「うん」
赤面して動揺しているすず。

すず「って先輩、時間大丈夫ですか!?」
颯「うん。――これ、一巻は?」
颯読んでいた漫画を指して訊ねる。

すず「今日は一巻は持ってきてないんです」
颯「これ、俺らの病気の話なんだ」
颯、興味深そうにペラペラとめくりながら言う。

すず「お伽話が元みたいですね。先輩、漫画好きなんですか?」
颯「ドラマの原作とかは読むけど……好き――かは、わからないな」
颯の顔が少し翳る。(※好きなものが颯にはわからない)

すず「一、二巻も面白いので今度持ってきますね」
颯「漫画好きなの?」
すず「だいっっすきなんです!!」
すず、にこにこで勢いよく答える。
すず「私初恋もまだなんですけど、漫画ではいっぱい恋した自信があります」
威張るように言うすず。

颯「なんだそれ」
すず「先輩さっきの三巻読んでましたよね、とめきませんでした? ちょっと強引なアンリの――って、すみません」
すず、暴走しそうになったことに気づいて口を止める。颯はほんの少し楽しそうな表情で見つめている。

すず「あ、時間ないですよね、キスしましょうか」
恥ずかしくなったすずはごまかすように、気合いを入れたふりをして立ち上がる。
颯、少し不服そうな顔をしつつ立ち上がる。
いつもと同じく気を付けをしているすず。目を閉じる。
颯、じっと見つめたまま、キスをしない。

すず「……? 先輩、どうし――」
なかなかキスされずに不思議に思ったすずが目を開くと、少し意地悪な表情をした颯がキスをしてくる。
すず「……!」
いつも一瞬で終わるキスだけど、十秒ほどのキスになる。
すず「…………っ!」
赤面しすぎて言葉にならないすず。

すず(は、反則だよ!
最近やっと慣れてきて、事務的にこなせるようになったのに……!)
すずの表情をみた颯、ほとんど表情を変えないけど満足気な顔になる。

すず「先輩……!」
すず涙目で抗議する。
颯「明日、土曜日だから」
すず「キスの長さ、関係あるんですか……?」
颯「さあ? でも、貯金された感じしない?」
さらりと言う颯。

すず「確かにそう言われたら、そんな気もしますけど」
すず恥ずかしくて目を逸らしながら、漫画をカバンに詰めていく。

颯「すずはなんでいつも急いで帰るの」
すず「えっ、だって先輩忙しいから」
漫画を詰めるすずの腕を颯が取る。
すず(本当は恥ずかしくて、逃げてるところもあるけど)

颯「今日はこのあと予定ないけど?」
すず「そ、そうなんですね」
ぎくりとするすずをじっと颯が見つめる。

颯「じゃあ漫画貸してよ」
すず「えっ?」
颯「さっきの一巻。今からすずの家に借りに行く」
すず「だめですよ!」
颯の言葉をすず仁王立ちで却下する。
すず「先輩は人目を気にしないといけない人なんですから!私と歩くなんてだめです」
颯「外、歩かなければいいんだろ」


〇タクシー車内

颯とすず、後部座席に乗っている。
颯「これなら問題ないだろ」
涼しい顔の颯。
すず「それはそうですけど……」
すず(芸能人だ……!)
颯「俺が知られるようになったのまだ半年くらいだし、そこまで売れてるわけじゃないから。バレることもないけどね」
颯、窓の外をぼんやり見ている。
すず(先輩がまさかうちにくるだなんて……!)
颯が家に来ることにドキドキしているすずは落ち着かない。


〇すずの家・玄関

すず母、びっくりした顔。
颯「はじめまして、綾野颯です」

玄関の扉を背に颯とすず立っている。すず気まずそうな顔。
すず「えっと、私の『フローラ』の綾野颯さん」
すず母「まあ……。とりあえず、上がってください」
すず母がスリッパを出すと、颯は小さく首を振る。

颯「いえ……今日はすずさんのお母さんにご挨拶するために伺いました」
すず「……!」
すず、颯を見上げる。颯はすず母を真っすぐ見つめている。
颯「今回は娘さんを大変なことに巻き込んでしまい申し訳ありません」
颯、母に向かって頭を下げる。すず母もすずも慌てる。

すず「先輩、大丈夫ですよ!」
すず母「綾野さん、顔をあげてください」
颯、顔をあげるとすず母優しい表情で颯を見つめている。
颯、優しい母の表情に複雑な顔になる。

すず母「大変なことになったのは、綾野さんもですから……。すずの相手が誠実な方でよかったわ」
颯「いえ……ご挨拶も遅れて申し訳ありません」
また頭を下げようとする颯の背中にすず触れる。
すず「先輩、私本当に大丈夫ですよ」

颯「ありがとうございます。では、失礼します」
すず母「上がってお茶でも飲んでいったらどうかしら」
颯「いえ、今日は失礼します」
颯もう一度頭を軽く下げて、出ていこうとする。

すず「あっ、先輩! 漫画! 取ってきます! 車の中で待っててください!」
すず叫んでバタバタと階段をのぼっていく。
颯、面食らった様子ですずのあがっていく様子を眺めていた。


〇すず家外・タクシーが止まっている

後部座席に座っている颯、すずが笑顔で小さくノックする。
すず「先輩、これ。漫画です」
すず、紙袋に入った漫画を渡す。颯が受け取るとずっしりしている。

颯「重……」
すず「花蜜病の一巻だけじゃなくて、おすすめの漫画も入れちゃいました!」
颯が紙袋の中を見ると二十冊くらい漫画が入っている。
すず「返すのはいつでもいいので、良かったら読んでくださいね!」
颯「うん」
颯紙袋をしっかり受け取って、自分の隣に置く。それをすずは確認して
すず「ではまた月曜日。指定の時間に連絡してくださいね」

すず笑顔で手を振り車から離れようとすると
颯がすずの腕を掴んで、すずは車内に引き込まれる。
すず「きゃ……」
すず、颯の膝の上に覆いかぶせる。

すず「いてて、何するんですか……」
颯「さっき強引なシチュエーションが好きって言ったから」
涼しい顔の颯にすずは驚いた顔になる。

すず(そういえば三巻で、帰り際に馬車に引き込むシーンがあった……!)
思いだした表情のデフォルト絵のすずの背景に、ヒーローがヒロインを馬車に引き込んでいるシーンのコマ

すず「もうびっくりします」
颯「あまりうまくいかなかった」
不思議そうな顔をしている颯をすずはちょっと呆れた顔で見る。
すず(先輩って実は天然なのかな)
すず体勢を起こそうとすると、颯とすずの顔がキスできそうなくらい近くなる。

颯の顔が近づいてくるからすず唇を手で覆う。
すず「先輩……もう今日キスしましたよ?」
颯「うん、ダメ?」
じっと颯がすずを見つめる。

すず「だって……」
颯「明日、土曜日だから」
すず「そればっかり」
颯はすずの手首をゆるくつかんで、唇を覆っていた手のひらをはがしていく。
 
近くで見つめあう二人。
颯の目が閉じられる。そして唇が近づく。
すず(私は先輩のまつげって長いんだなぁなんて、関係ないことを考えていた)
すず、目を閉じると、唇が重なる。

すず(そうやって関係ないことを考えていないと、どきどきしている自分に気づいてしまいそうだったから)

二人が車内でキスをしている大ゴマ。


〇颯のマンションのエレベーター
颯、重い紙袋を持ちながらエレベーターに乗り込む。
スマホが震えて、画面を見るとすずからメッセージが届いていた。

すず『忙しい先輩のために一言漫画紹介* 気になるものから読んでみてください!
孤独な悪役魔王の花嫁に立候補します←クールな魔王とポジティブヒロインの話です。
この魔王様、見た目も性格も先輩に似ているかもしれません……!』
たくさんスクロールしないといけないほど漫画のオススメ文章がずらりと並んでいる。

颯「……はっ」
小さく笑う颯。紙袋を愛しい表情で見る。

エレベーターから降りて、自分の家に入る。

綾野母「颯っ!」
リビングから母の声が聞こえて、ビクッと身構える颯。
紙袋を見られないように自分の後ろに隠す。

リビングの扉が開く。母の表情は喜びに満ちていて怒りではないことに気づき、肩の力を抜く颯。

綾野母「ドラマの打診が来たわよ! 今回は主人公カップルの恋のライバル役よ!」
母は狂喜乱舞していて紙袋に気づく様子もない。
颯「そう、よかった」
綾野母「いい時間帯だし、主演の二人も最近人気の子たちで、かなり注目度も高いし、おいしい役どころだわ!」
颯「そうなんだ」
靴を脱ぎながら、家に入っていく。

綾野母「お祝いでごちそう作ってるから! 手洗ったらリビングまでいらっしゃい」
母がご機嫌に戻っていく。颯は目を閉じて漫画の紙袋を抱きしめると、部屋に向かっていった。