ーーそういえば、最後に涙を流したのはいつだったかな。もう思い出せない。
私、頑張ってたんだ。すごく。今までずっと体裁を気にして、西園寺財閥の跡取りとして。涙も流さずに。
だからきっと、思った以上に疲れてたんだ。自分でも……ううん、自分だけがわからないうちに。
そういえば家が雇っている執事やメイドたちにも心配されてたなぁ。
もう少し休んだらどうですか、とか。無理しないでください、とか。
言われてたのに……みんなが心配性なんだと思って受け流してた。
はは……自分が一番分かってなかったなんて、情け無い。
ーーそれからしばらく泣いていた私の頭を、槙野くんはずっと撫でていてくれた。
その温かい手の温度は私の心を落ち着けてくれる。
「ごめんね。急に泣き出しちゃって。……もう、子供っぽいなぁ……」
私は腫れているであろう目元を拭いながら話しかける。
「ふっ。いいんです。まだ子どもなので。」
槙野くんは目を擦っていた私の手を優しく剥がし、
「……そうだね。高校生はまだ子どもか。」
私は自然と笑いが込み上げた。それは取り繕った笑顔ではなく、本当に自然な笑みだった。
「……やっと、本当の笑顔が見れましたね。」
「あっ…!……ふふっ。色々と、ありがとう。槙野くん!」
「どう致しまして。」
そう言って笑った槙野くんの美しい笑顔は今でも鮮明に覚えている。

