つい、くんをつけてしまったが、私にしては上出来だろう。
槙野くん、じゃなくて颯斗くんの反応を見たいけど、恥ずかしさで顔を上げられない。
「…………」
茶化されるかなと思ったのに全然反応が返ってこない。
すぐ前にある体も微動だにしない。
「……?颯斗くん?」
不思議に思い、思い切って顔を上げるとその瞬間に颯斗くんは背を向けてしまった。
「えっ!?なんで!?」
「…………」
「ちょっ、もしかして、照れてます?」
「…………」
「ねぇねぇ、顔見せて!」
「……嫌です。」
「やっと喋った!ねぇ、いいじゃない!」
初めて彼の上に立てたような気がして先程の恥ずかしさなんて空の彼方に投げ飛ばした。調子に乗った私は颯斗くんの背中をポンポンと軽く叩く。
「ねぇね……わっ!」
ニッコニコの笑顔で颯斗くんの正面に回ると、顔を見る前に彼に腕を引かれる。
颯斗くんに抱きしめられていると気がつくとさっきとは打って変わって取り乱してしまう。
颯斗くんの香りに包まれて、こんな状況だが少し力が抜ける。気を許しているからだろうか。
幸福感を抱いてこのままでいたいと思ってしまったが、颯斗くんの表情もみたい!
腕の中から抜け出そうとするも、力が強くて少しも緩まない。反対にきつくなっている気がする
「ちょっ……颯斗く……」
「黙って。」
「………そろそろ、離して…?」
「ダメ。」
いつもの敬語が消えていて不覚にもキュンとしてしまう。
私も颯斗くんにしっかり惚れ込んでいるなぁなんて他人事のように考えた。
それからも下校時間を知らせるベルがなるまでずっと抱きしめられていたのであった。

