【短編】天然お嬢様は焦らされてる事に気づかない。



(はぁ、でも言っちゃったんだから……これから頑張ろう!!)

そう自分を勇気づけながら教室に向かう璃子は勿論知らない。

「……マジか。やばい、嬉しい……」

璃子が去った執務室でしゃがみ込んだ槙野が真っ赤な顔でそう呟いていたことを。

***

「どうしよう……。」

放課後、いつもならすぐに執務室に向かうところが、今日はトイレに篭っている。

「勇気がでない……。」

先程告白してしまったのだ。気まずいったらありゃしない。
ここでいつも通り話せる人は本当に強者だと思う。

勿論私はそんな強者ではなく、むしろ臆病者だ。

「ううーーー……。でもウジウジしてても意味ないよね!」

腹を決めてトイレから出て歩みを進める。
その後、行き交う生徒に挨拶しながら執務室に向かう。

「…………」

(いつもは待ち望んだドアなのに……すごい大きな関門に思えてくるよ〜〜……)

ドアノブに触れてゆっくりと開ける。

ギーーっと音を立てて開く扉の隙間からそーっと中を覗く。

「あ………。」

「お疲れ様です。遅かったですね。」

槙野くんは机の上に置いてある書類の整理をしていたらしく、私の存在に気づくといつもの無表情で声をかけた。

「あっ……お、お手洗いに行ってて…。」

「そうですか。……では、今日の仕事を始めましょう。」

「う、うん。………?」

(なんか、すごい……普通?)

まるで告白した事実がなくなったようで、少し焦燥感を覚える。

(……もしかして、伝わってない!?)

一世一代の勇気を振り絞っていったのに〜……
これで友情の好きだと思ったとかなったら耐えられない。

それを聞く勇気も告白にすべてを費やしたためもうゼロだ。

その後の仕事はあまり捗らず、槙野くんに迷惑をかけてしまったのだった。