「……ただいま」

 ぼそりとつぶやくように言うと、俺はそのまま自分の部屋にこもった。


 さっきまで奈々と二人で過ごした時間が、まるで夢だったんじゃないかって思えてくる。


 寧々の誕プレを一緒に選んでほしいって言ったら、自分にはくれないのかってむくれてたけど。

 そんなもん、とっくの昔に吟味に吟味を重ねて購入済みだっつーの。

 それに、寧々の誕プレを一緒に選んでほしい、なんてのは奈々を呼び出すためのただの口実で、最初で最後の奈々とのデートのつもりだった——なんて本当のことを言ったら、アイツ、どんな顔しただろうな。


『コータとあたしがデート!? ありえないんだけど!」

 って笑い飛ばされて終わり、か。


 ふっと苦笑いが漏れる。


 俺が今日一日どんな気持ちでいたかも知らないで。ただひたすらに楽しんでたよな、アイツ。

 スイーツバイキングでは、ホクホクしながらこれでもかっていうくらい皿いっぱいにケーキを取ってきては、幸せそうな顔で頬張って。

 スポッ〇ャのローラースケート場では、あんなど派手に転びそうになりやがって。

 慌ててクッション替わりになってやったまではよかったんだけど……。


 アイツって、あんなに華奢だっけ?

 腰なんか、あんなにほっそりして。

 ってか、あんときはヤバかった。

 本能が暴走して、こいつを離したくないってことしか考えられなくなってた。


 ……ああっ、もう。だから、思い出すなっつーの!!


 髪をわしゃわしゃとかきむしり、すーはーすーはーと何度も大きく深呼吸を繰り返す。