足を止めて振り向くコータの目が、あたしの姿をとらえ、大きく見開かれた。


「コータ、バイバイ! ……ううん、いってらっしゃい!」

 コータにもらったペンダントの入った箱を掲げながら大きな声で言うと、

「おうっ、いってきます!」

 コータは笑顔で片手をあげ、そのまま新幹線へと乗り込んだ。


 なんとかコータの乗り込んだ入り口前に到着した直後、プシューという無情な音とともに扉が閉まる。


『危ないですから、黄色い線までお下がりください』

 構内アナウンスが響き、一歩うしろへと下がる。


 コータが、扉の向こうでなにかを言っているみたいだけど、声は聞こえない。

 手持ちのカバンをがさごそ探って、コータが引っ張り出したのは——。


「うん。……がんばれ!」

 何度もうなずいて見せる。


 あたしがあげた、スポーツタオル。

 ちゃんと一緒に持っていってくれるんだね。


『ありがとな』

 声の届かないあたしにもわかるように、ゆっくり大きく口を動かすコータ。


 やがてゆっくりと新幹線が走り出し、その姿が見えなくなるまであたしはその場でずっと見送った。


 結局、なにも伝えられなかった。

 でも、いいんだ。

 いつか、コータに会いに東京に行くから。


「あたしも、ずっとコータのことが好きでした」って伝えるために。



(了)