「——俺さ、実は、東京の大学から誘われてるんだ」

 秋も深まり、学校中が受験一色に染まる頃、学校からの帰り道を歩きながら、あたしんちのお向かいに住む幼馴染のコータが唐突に言った。

「え……」

「へ、へえ~。そうなんだぁ!」

 言葉を詰まらせる双子の妹の寧々をチラッと横目に見つつ、あたし奈々は必死に動揺を隠して明るく言った。

「誘われてるってことは、やっぱ野球部がらみ? すごいね! スポーツ推薦ってヤツ?」

「ああ。まあな」

「東京って、人多そうだよね~。電車もいっぱい走っててさー。コータ、迷子にならないように気をつけなよ? そうだ。田舎モンだってバカにされても、暴力だけは絶対ダメだからね?」

 真正面を見つめたまま、いつになくハイテンションでまくし立てる。

「わかってるよ、そんなこと」

 そう言って苦笑いするコータの方を見て——さっきまであたしとコータの間を歩いていたはずの寧々の姿が消えていることに気がついた。

 足を止めて振り向くと、3メートルくらいうしろに、うつむいたまま立ち尽くす寧々の姿。