笑顔のまま、彼は分かりやすく怒っている。
私の体に触れる手に、グッと力が込められた。
「…………私の甘さが招いたことです…。煮るなり焼くなりどうぞ…」
ぎゅっと目を瞑って懺悔する。
「…………ハァ」
大きなため息が聞こえてきて、私は片目を恐る恐る開いた。
柳は呆れたような表情で天を仰いでいる。
そして前髪を掻き上げると、眉間を指で揉みながら「それで?」と話題を変えた。
あ、あれ…
なんか、いま呆れられたよね?
…どうやら私は何か間違えてしまったらしい。
「その、キスしてきた鈴木ハルトって男はどんな男だ?」
さっきの熱っぽさはどこへやら。
「…えっと、大学生で…」
「それは前聞いた」
「…一応もう一回聞くけど、殴りに行ったりしないよね?」
「あぁ、多分な」
「…………」
言い返そうかと思ったけどやめた。
私は何も言わずに続ける。
「黒髪で、好青年って感じで。…あ、目に涙ぼくろがあって」
柳の視線が鋭くなったのに気が付かないまま私は「あとね」と付け加えた。
「首にタトゥーが入ってる。蛇の」
柳が目を見開き、私の肩を掴んだ。
「……柳?」
表情に動揺が見られ、こちらを見ているのに視線が合わない。
「…………遊馬」
ぽつりと呟き「あぁ、クソっ」と、珍しく感情的な言葉を吐く。
「葉月、本当にそいつに何もされていないんだな?」
「え…、う、うん…」
「そいつは鈴木ハルトじゃない…。遊馬 伊吹(あすま いぶき)って男だ」
「え?」
……どういうこと?
鈴木、ハルトじゃない…?
柳は唇をキュッと結んで、狼狽えながら口を開いた。
「遊馬 伊吹、…阿久津沢の元キングだ」


