ふたりが、柳を囲んでいた3人目掛けて走っていく。
そして、柳を追いかけようとしているところを止めに体を割り込んだ。
おそらく、柳に加勢しにきたのだろう。
柳には劣るが、共に並外れた強さだった。
由井くんはパワーがあって、あさひくんはとても素早い。
二人がいつも柳の隣にいることが、目の前で繰り広げられる動きから理解できた。
「お前、いい加減あきらめたら?」
柳がすっと目を細めて、鉄剤の上に尻餅をついている笹倉に、目線を合わせるようしゃがんで言った。
「これだけ血だらけになったんだ。満足だろ」
柳の冷え切った声が笹倉にふりかかる。
柳の言葉通りに、彼は血だらけだった。
「んだとテメェ!」
笹倉が怒号をあげ、彼の顔目掛けて拳を振りかぶった。
ガツンと嫌な音が、聞こえてくる。
笹倉の拳は柳の顔に直撃していた。
…にもかかわらず、彼は顔色ひとつ変えずに再び笹倉に視線を戻した。
「お…まえ…」
美しい顔が赤く染まっていく。
震えた笹倉の声。
殴った彼を見つめる柳の瞳は、怖いくらいに冷静で、それでいて怒りに満ちていた。
「まだ足りない?」
冷え切った声が…
地を這うようなその声に、笹倉もその場にいた私も震えた。
柳の顔面を離れ、空虚に突き出した笹倉の拳を
柳はゆっくりと握るとそのまま裏返し捻り上げた。
胸ぐらのシャツを掴み、笹倉を引き摺り
やり返すように彼の顔面目掛け、硬く握った拳を下ろす。
「ぐ…ぁっ」
大きく開いた笹倉の口から呻き声が漏れる。
反射的に身を捩ったのも束の間、また柳はそれを遮るようにして彼の顔を殴る。
さっきまでの天塚と阿久津沢の優勢は一転して、覆ってしまった。
私は地面に伏せたまま、焦る笹倉の顔を眺める。
「俺の敗北がお望みなら、いくらでもお前に付き合ってやるよ」
「ほら、立てよ」と淡々と柳は告げた。
柳の姿は、言葉とは裏腹にボロボロ。
先ほど数人に袋叩きにされたようなもの。
どこにそんな力が残っているのだろう。
血だらけ、傷だらけでも尚、彼はキングのまま。
笹倉の胸ぐらを掴み、低い声で挑発する様からは恐ろしさすら感じ取れた。
「女を出しにするような奴が、佐百合に勝てるわけねえだろ」と、由井くんが横から入る。
どうやら、笹倉の手下をあさひくんと2人で倒してしまったみたいだ。
もう、天塚に勝ち目は殆どないだろう。


