髪の毛くらい、くれてやる。
髪の毛が床に落ちる様あっけに取られながら眺めている笹倉を、思い切り突き飛ばす。
「くそ!テメェ!!」
顔面目掛けて、男の人の大きな拳が飛んできた。
途端、ガりっと口の中に血の味が広がる。
初めて顔を殴られたにしては、あまり痛みは感じない。
たぶん、アドレナリンのせいかも。
と、呑気にそんな事を考える余裕すらある。
けれど、意識とは対照的に私の体は軽々と吹き飛び、汚い地面にころがった。
地面に落ちた衝撃が、腹部に広がる。
「うっ…っ」
今度は痛い。
だけど、これでいいの。
私が作った精一杯の隙。
そして、その隙を見逃さなかった柳が
相手の一瞬をつき、殴りかかってきていた二人を避け、笹倉に飛びかかった。
私にほぼ馬乗りになっている笹倉の首根っこを掴みひっぱると、その焦った頭に蹴りをお見舞いした。
ガシャーンと、後ろにあった鉄材の山に笹倉が吹き飛ぶ。
「柳さん!!」
入り口からあさひくんと由井くんが走り込んできた。
彼らもまた、柳と同じように傷だらけで疲れ切った様子だった。


