殴られるたびに、彼はよろめいた。
そして、がくりと膝を落とす。
俯いた彼の顔からは、血が滴っていた。
「や、やめて…!ねぇ、やめさせてよ!」
このままでは……本当に…
私は笹倉に向かって思い切り叫んだ。
鉄パイプをもった1人が、柳の頭目掛けて殴りかかるのが視界の隅確認できた。
ひゅ、と喉の奥が詰まり、血の気が引く。
ガツン…!
と鈍い音がして、私は思わず目を瞑る。
「……っ」
柳の苦しそうな呼吸音が聞こえた。
ゆっくりと目を開けると、柳は頭ではなく腕で鉄パイプを受け止めていた。
頭にはあたってはいなかったものの、彼の表情は歪んでいる。
受け止めた腕がぶらんと力なく落ちた。
そしてそのまま、柳が床に倒れ込む。
「う…」
彼の苦しそうな声と息遣いが、微かに聞こえてくる。
見ていられない。
「もう…やめて…」
やなぎ、やなぎ、おねがい。
もういいから。
涙目で見上げると、笹倉はニタニタと笑って倒れた柳を見つめている。
「いやーいい眺めだ」と、嬉しそうにつぶやいた。
このまま、柳が何も返さなかったら、本当にやられてしまう。
柳はきっと、私がいるから動けない。
私のことを庇うために、やり返さない。
本当なら、いとも簡単に、その強さで相手を負かすのに。
私のせいだ…
私がこんな簡単に巻き込まれてしまったばっかりに…
「柳…ごめんね…」
彼の疲弊し切った瞳が謝罪の言葉を述べる私を捉えた。
けれど、その瞳はいつもの柳だった。
その瞳をしばらく見つめて、私は意を決した。
力一杯体を捩って、掴まれていた笹倉の手から抜け出そうともがく。
笹倉は、私が抵抗すると思っていなかったのか、驚いた顔をこちらに向けた。
「!!」
もがいた反動でナイフにあてがわれていた私の自慢の長い髪が、ばっさりと切れ落ちる。


