「…さぁ、どうかな?もしかしたら、助けになんか来ないかも」
むしろ助けに来て欲しくなんてなかった。
私のために、こんな大勢が待ち受けてるところに来なくてもいい。
彼等はきっと、攫った私を殺しはしないだろう。
もし柳が来ることがなければその内、待つのに飽きて、ひとしきり遊ぶのに疲れたら、ぽいっと捨てるに違いない。
新しく買ったおもちゃを、飽きて捨てるみたいに。
森田の顔が頭をよぎった。
気色の悪い感触が一気に体に蘇り、私は思わず身震いした。
「っ……」
猛烈な吐き気が込み上げてくる。
大丈夫、大丈夫。と自分に言い聞かせる。
あの時も、乗り越えられたんだ。
今回だって、きっと大丈夫。
だって、私には柳がいる。
彼が助けに来なくたって、私は彼がいれば生きていけるから。
何だか深呼吸を繰り返して、体を落ち着かせる。
そして、2本目のタバコを弄っていた笹倉に問いかけた。
「柳が来たらどうするつもりなの」
ねぇ、と更に詰めてみても、彼は答えない。
一体、何を考えているのだろう。
「答えて…!お願いこんな事やめて。
あんたは柳に勝てない。こんなことしてる時点で負けてるよ」
そう言った途端、笹倉の頭の血管が、ぴくりと動いた。
「おい、あんま舐めた口聞いてんじゃねぇ」
と、強圧的な低い声が近づいてきたかと思ったら、ぱぁんと左頬に痛みが走る。
「っう…!」
平手打ちされて痛むところをさすることすら、拘束されていて叶わない。
私は痛みを受け止めながら、思いっきり彼を睨んだ。
「阿久津沢がきました!」と、扉を開けてやってきた笹倉の手下が焦った表情で叫ぶ。
扉の向こうからは、何かがぶつかる音と、人の叫び声が聞こえてきていた。
柳が、ここに…?
「ねぇ、何が起きてるの?教えて!」
私は思わず彼らにそう言った。
この扉の向こうで、何が起きてるの…?
笹倉が、不敵に笑った。
「あいつが来たんだよ」
立て、と乱暴に手を掴まれた後、無理やり立たされると、私は彼らに囲まれながらその扉の向こうへと足を踏み入れた。


