「蘭子さんごめんなさい!遅くなりました…!」
野田を見送った後、『orchid』のドアをくぐり店内に入ると、お客さんでいっぱいだった。
この時間帯の『orchid』お客さんはお酒というより夜ご飯メインで訪ねてくることも多い。
カウンターの奥にいる蘭子さんはいつになく忙しそうだった。
私を見るなり、ほっと安堵の表情を浮かべる。
「ありがとねぇ〜。超助かるー」
空いた皿を下げて、小さなシンクで洗っていた私に、蘭子さんが目尻を下げてお礼を言った。
私がお店に着いてから、あっという間にピークの時間は過ぎたようで、店内に見えるお客さんの数も半分以下になった頃。
蘭子さんが賄い代わりに作ってくれたナポリタンを、柳たちがいる席へと運んでいる時にそれは起きた。
ー キィィッ ガシャーーーンッ
車のエンジンの音が近づいてきたかと思った途端、ビルの外から大きな衝撃音が聞こえてきたのだ。
何かが爆発でもしたんじゃないかと感じるほど大きな音。
その衝撃音と共に、ビル全体が揺れた気がした。
「なに!?」
蘭子さんが悲鳴のような声をあげ、店内は一瞬で騒然となる。
窓際に座っていたあさひくんが、急いで窓の外を覗き込んだ。
「車が…!」
あさひくんは下を見るなり、目を大きく見開いて叫んだ。
由井くんが後を追って窓に近づいた所で、もう一度、大きな音と共にけたましい車のエンジン音がなる。
ー ブォォォゥン ガガガッ
「一階に突っ込んで、うわ、やば…」
只事ではない、とあさひくんの声色ですぐに分かった。
あさひくんの顔からさぁっと血の気が引いていく。
柳、由井くん、あさひくんが急いで階段を駆け降りて、事故現場となったビルの一階へと向かった。
蘭子さんは、とても不安そうな顔でこちらを見ながらも、お客さんの対応をしている。
「私、ちょっと、見てきます…!」
私も彼らの後を追って駆け出した。


