「えっ、鷹宮じゃん!」
眼鏡をかけた制服姿の野田。
会うのはいつぶりだろう。
塾を急にやめてしまって以来、彼と会うこともなくなっていた。
野田は、「うわー、まじかー。めっちゃ久しぶりだな」と驚きの声をあげている。
「急に辞めちゃってごめんね」
「いやいいよ。…なんか色々聞いたけど、その…大丈夫だった?」
心配そうにこちらを見る野田。
私は笑って頷いた。
「大丈夫だよ。ありがとね」と言った私の顔見た野田は、安心したように笑みをこぼした。
そして、隣にいた柳に視線が移る。
「えっ、あー…え?阿久津沢の?」
野田が柳を指差した。
そう言えば、彼に柳のことを尋ねたままだった。
野田は柳の顔をじっと見て、何度か瞬きしてからニヤリと笑う。
「なーんだ。上手くいったんだ?」
「まぁ…そんな感じ」
「ふうん。良かったじゃん。…つーか骨格綺麗すぎね?モデルとかやってんの?俺描いてみたい」
『描いてみたい』と野田の感想を聞いて、やっぱそうだよねぇと心の中で頷く。
柳が不思議そうに私を見た。
「塾で一緒だったの。野田くん」
「どうも」と、ペコリと頭を下げる野田に、柳も挨拶する。
「俺、先に上がってるな」
柳がそう言って先にビルに入って行った。
きっと気を遣ってくれたのだろう。
柳の背中を見送った後、「お前の彼氏完璧だな、全部が」と肩を小突かれる。
「…野田は、まだ通ってるの?」
「まあな。辞めるわけにも行かないし。鷹宮は?」
「今、知り合いの先生に教えてもらってるんだ」
「そっかぁ」と、野田が優しく笑った。
そして、私の顔をじっと見て、
「なんか、鷹宮変わったな」
そう言った。
「楽しそうでなにより」と、頷いている。
「野田も、体に気をつけて頑張ってね」
「うん。鷹宮もな。じゃあな」
走っていく後ろ姿。
片手には大きなバックがぶら下がっていた。
野田はやっぱり憎めなくて良い奴だ。
絵がずば抜けてうまいのに、素直に人に上手いと言える、そんな奴。


