「あさひくん、もういるって?」
「あぁ、さっき連絡が来た」
柳は恒例の由井&猿川コンビの2人と晩御飯兼、駄弁り。
(まぁ、柳はほとんど喋らない。
あぁ。とか、そうだな。とか、適当な相槌を打つだけだけど)
かくいう私も、蘭子さんに『お店ちょっとだけ手伝ってくれない?!』というお願いをきくために、『orchid』へと向かっていた。
2人で並んで歩く。
蒸し返すように暑かった八月も、やっと終わりを告げた。
今ではもう蝉の声もあまり聞こえなくなってしまった。
海での思い出が恋しい。
キラキラして眩しい、私の大切な思い出。
柳の隣を歩きながら、彼を見上げる。
やっぱり、彼の横顔は本当に完璧だ。
綺麗すぎて、ため息が出る。
「今日、遅くなるけど帰りに柳んち行ってもいい?おばあちゃんに会いに行こうかな」
「もちろんかぼすも」と、付け加える。
「明日は朝から二階堂さんの家に行くんじゃなかったのか?」
「なんだか外せない予定ができちゃったらしくて、延期になったの。だから明日は休み」
「なら泊まれば良い」
「ええっ、荷物とか何も持ってきてないよ?」
「取りに帰ればいいだろ。バイクで送る」
そっかぁ。それならいいか…って
「柳、バイク運転できるの?」
「あぁ。持ってはないけどな。あさひか由井のを借りれば良い」
バイク持ってないのに、なんで運転できるの…?と独り言のように呟いたそれを、柳はしっかりと聞き逃さない。
「管理するのがダルかったんだよ。だから売った」
「…なんか柳らしいね」
ふふ、と笑うと柳はそっぽを向いてしまった。
道の先に、『orchid』の看板が見えてくる。
ビルの入り口に着いたところで、思わぬ人を見かけて足が止まってしまう。


