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『着いた』
シュポッという効果音と共に、柳からのメッセージが届く。
待ち侘びていた私は急いで家のドアを開けた。
彼と会うのは二週間ぶりになる。
ドアの前に立っていた柳が、私を見るなり優しく目を細めた。
「久しぶり…!」
玄関口に立つ柳を見上げる角度が、いつもとは少し違うような気がする。
「柳、背伸びた?」
「さぁ、わからない」
首を傾げた後、悪戯っぽく笑った柳は、私の体をヒョイっと持ち上げて抱きしめた。
柳の匂い。
石鹸の中に、ちょっと苦い大人の香り。
私の首元に顔を埋めて、ぎゅうっとさらに抱きしめる力を強めた柳は、楽しそうに首筋に何度もキスを落とした。
ちゅっ、ちゅっとわざとらしいリップ音が部屋に零れ落ちる。
「ふ、ふははっ…!やめて…!くすぐったい…っ」
身を捩らせて避けてみても、柳はやめてくれない。
おでこに、耳に、頬に、何度もキスが降ってくる。
阿久津沢のキングがこんな感情表現豊かなんて、誰が想像つくだろう。
「アンタの匂い、久しぶりだな」
「良い匂いだ」と、柳が髪に顔を埋める。
一瞬、鈴木さんの顔が頭に浮かんだ。
薄暗い彼の部屋でのあの一言。
『まだ、行かないで』
あれはなんだったんだろう…?
冗談だよ、と笑っていたけれど、本当にそうなのかな。
もし本気だとすれば?
いやまさか、と首を振る。
なに自意識過剰になってるんだろう。
柳と恋人だからって、少し自惚れすぎだ。
「ほら、遅れちゃうよ?行こう…!」
私は柳の手を取って、家を出た。


