きみがくれたもの

第6章 さようなら



真の容体が急変したのは、海へ行った1週間後の事だった。大みそかの昼だった。真のお母さんに連絡をもらって急いで病院に駆けつけた。


「ま、真?」
「由、希?」
酸素マスクを付けて、呼吸をするのもままならない様子の真。真は、このまま死んでしまうのか、と思うと怖くなった。
「真。大丈夫。私が、そばにいるから‼真、死なないで。私、まだキミに返せてない。恩を!何も、返せてない!だから、死なないで!」
「だ、大丈夫。ゆ、由希は、いつも、俺に、勇気を、くれ、た…。だから、恩を、りっぱ、にか、えせているから!自分に、自信を、持って!由希!君は、一人じゃない!」
そう言って、真は意識を失った。心拍は、まだ正常に動いていた。でも、真の言葉をよくよく聞くと真は自分の死期が分かっているみたいだった。
私は、今日は真の病室に泊まると決心した。主治医や真のお母さんに話をすると許可を得られた。夜が更け、朝を迎えた。もう、起きてすぐわかった。真は、昨日が最後の夜だったんだ。


年が明けて8時間が経った時。
真が危篤になった。心停止で、すぐさま処置が行われたが、命むなしくそのまま静かに息を引き取った。
真は、いろんな人に囲まれながらだった。みんな、声を上げて泣いていた。私も、その中の一人だった。真の病室内には、泣き声が響き渡った。みんな、1時間と2時間とたくさん泣いても声が掠れるまで泣きまくっていた。お姉ちゃん達を見ると2人も私と同じように泣いていた。そこで気が付いた。真が、後ろにいた。でも、私に気が付いて姿を消した。











































数日後、真の葬儀が行われた。棺の中で、穏やかな顔をして眠る真の姿にまた涙が出てきた。


お参りした後、火葬場に向かった。真は、骨だけの姿になって帰ってきた。私たちのもとに。火葬が終わって解散の時、真のお母さんに引き止められた。
「由希ちゃん。いつも、真のためにお見舞いをしてくれてありがとう。」
深々と頭を下げた真のお母さん。
「いいえ。」
憎たらしいほど、変な回答しか出てこなかった。
「あのね、あなたに渡したいものがあるの。」
そう言って、差し出されたのは何の変哲もないただの紙だった。真っ白で、何にも書かれていない。変哲もない、紙。でも、それが真のメッセージだと分かった。
「これが、ですか?」
「そう。多分、真があなたにって。」
そのあと、思い出した。


「由希。あぶりだしって知ってる?」
私の大好きな愛する人の声。
「あぶりだし?」
「果物とかの果汁とかを使って、紙に書く。それを乾かす。乾いたら火であぶる。やってみてね。」
あぶりだし。真が教えてくれた中の1つ。


「ありがとうございます。もらいます!」
急いで、火葬場を出て、家に戻った。理由は、ライターを持っていくため。持って、人気のない海へ向かった。


「真。見ててね。」
紙を、火であぶった。すると、文字が出てきた。


〈由希へ
君がこれを読んだという事はこの世に俺はいないで合っているよね?俺は、病気で長くは生きられないから今やりたいことを君と一緒にやった。水族館に行ったのもいつかカレカノ同士で行きたかったからなんだ。由希。君は、一人じゃない。君には、俺がいない遠い未来を明るく、楽しく過ごしてほしい。俺は、それだけを願っているから。〉
ポタッ、ポタッ。あ、あれ?涙が止まらない。真。
「フグ。フグ。」
このあぶりを使った手紙は、キミからの贈り物。未来で、私にこれを読ませるために、あのクリスマスの日。言ってくれたんだね。ありがとう。真。私も、遠い未来を楽しく過ごしてほしい。気が向いたら、私にもぜひ会いに来てね。