きみがくれたもの

第5章 病院



真は、病気が悪化したのか学校を休みだした。メールでは、〈病院に来ないで〉と言われていたけれど、そんなことができず、真が休みだして1週間後我慢できず放課後病院に向かった。


「早川真さんの病室はどこですか?」
「408号室です。」
受付の人に教えてもらい、面会証をもらった。


実際に、408号室に行くと個室だということが分かった。
個室。もしかして、お金持ち?と思ってしまったけど、いやいやないない、と自分の考えを自分で否定した。


「ふぅぅぅぅ。」
深呼吸をして、いざ!


コンコン。
「はーい。どうぞ?」
真の元気そうな声が聞こえた。ひとまず、その声に安心した。ゆっくり、ドアを開けた。


「由、希?」
拍子抜けの声がした。
「うん。真。」
「な、なんで?来ないで、言ったじゃん!」
怒っているようだ。でも、そんなの関係ない。私は、私の選択をした。病院に、行くという。


「嫌だよ!」
私の大声にびっくりしたようだ。
「いつ死ぬか分からない君の明日を私は絶望の気持ちで待っていなくちゃいけないの?今ここで、真の病室に来なければ私は、一生後悔する。来ないで、だなんて…。ずるいよ…。」
辛くて、辛くて涙が出てきた。泣きながら、私は続けた。
「私は、今自分で真に会いに行くという選択をしたの。だから、来ないでって言わないで。お願い!」
しばらくの間、真は黙っていた。
「分かった。由希、ごめんなさい。」
「うん。うん。」
泣きながら、私達は抱きしめ合った。落ち着くまで、ずっと。ずっと。


しばらく経った後、2人で話した。
「ねぇ、真。言わなくても、良いけど…。教えてくれる?」
「ん?何?」
今からいう言葉に胸が詰まって、言えなくなった。
「余命、いつ?」
真がグッと言葉を詰まらせた。でも、教えてくれた。
「余命は、分からないけど、10年生存率約40%。でも、本当にわからないんだ。」
10年生存率約40%。ということは、今の生存率はかなり低いってこと?
「そう、なんだ。ねぇ、真。」
「どう、した?」
「死なないでね。」
真は、また無言になった。でも、答えた。
「うん。ずっとそばにいるから。」
そう言って、また抱きしめあった。










病院から帰ってきて、私は自分の部屋にいた。気が付くと、真希お姉ちゃんも鈴音お姉ちゃんも心配そうな顔をして来ていた。
〈由希、大丈夫?〉
真希お姉ちゃんが言う。
〈大丈夫。〉
2人とも怪訝そうな顔をしていた。心配、かけさせちゃってるんだな…。なんだか、申し訳ない気持ちになった。
〈大丈夫だから。あ、もう少しでご飯の時間だからリビングおいでよ。〉
私の明るい声にホッとしたのか、頷いてリビングまで来た。


「今日の夕飯は、何?お母さん。」
「今日は、コロッケよ。鈴音も真希も好きだったのよ、この特製コロッケ。」
「そうなんだ。」
2人のほうを見ると目が漫画みたいにキラキラと輝いていた。よっぽど、好きなんだなということが伝わった。
お母さんを見ると横顔や瞳からは少し寂しそうな顔を浮かべていた。
「由希。仏壇の所にこれおいてきてくれない?」
「はーい。」
お母さんに手渡されたコロッケをもって、仏壇がある畳部屋に移動した。


〈2人とも、私と同じでコロッケ好きなんだね!〉
〈ねぇ~〉
〈さすが、姉妹!〉
〈〈〈フフフッ!〉〉〉
3人で、笑いあってから、私は部屋を出た。


仏壇にコロッケを置き、お母さんと一緒にコロッケを食べた。その味は、とてもとても幸せな味だった。



真の病室に通い始めて早1ヶ月。私は、真のおかげで、毎日楽しかった。そんなある日のことだった。
私が学校にいる間、異変が起こった。真のお母さんによると、帰ろうとした時のことだったそう。


ドサッと鈍い何かが倒れこむような音がした。後ろを見ると真が、呼吸困難を起こしていた。急いで、ナースコールを押して真は集中治療室に運ばれた。幸いにもすぐ呼吸は安定し、意識が回復した。それから、後日病室に戻れたらしい。


そのことを知り、私は真の心臓に命の期限が近づいている、と思った。真が死ぬ前に、海へ行きたかった。行けるか分からないけれど、個室に戻ったあと開口一番に聞いてみた。
「聞いてみる。」
真は、そう答えてくれた。純粋に嬉しかった。海に行こう、というと「賛成!」と元気よく言ってくれた。


中々、外出許可が出なくて、やっと出たと思ったら約束から3ヶ月経った、クリスマスの日だった。約束の海へ、行けた。海を眺めている間、真が言った。




「由希。あぶり出しって知っている?」
「え?あぶり、出し?」
「そう。果物とかの果汁を使って紙に書いてそれを乾かす。乾かし終わったら、火であぶると文字が出てくるんだよ。やってみてね。」
「うん!」


そのあと、他愛のない話をしてもうすぐお別れの時間になっていくところで真が言った。
「由希。もし、俺が死んでも前に向かって、生きろ。」
「嫌だ。真、死んでもなんて言わないで…。お願い…!」
真は、答えなかった。でも、生まれて初めて好きな人とキスをした。1回目のキス記念日。






帰った後、私は今日から日記をつけようと思って、キスのことを書いた。


12月24日
生まれて初めて、運命の人とキスをした。真と一緒に。真は、短命なの、かな…?嫌だよ。ねぇ、真。死なないで。キミからの贈り物、まだ私返せていないや。いつ、返そう?それまで、死なないで。お願いします。よぼよぼの爺さん・婆さんになるまで一緒に過ごしたい。それまで、神様。お願いします。どうか、真と過ごした時間が1分でも1秒でも長く過ごせますように。お願いします。どうか。どうか。


書き終わった後、私は疲れと辛さでベッドに倒れこんだ。そのまま、私は静かに眠った。