「は?」

 何言ってんだこいつと顔をしかめた男だが、店内にいる全員が同じ気持ちだ。

「おすすめはミック・ジャガーセットです」

 違う。肉じゃがセットだ。イギリスのロック・ミュージシャンをどんなセットで売りつける気だ。

 若いのによくミック・ジャガーなんて知ってるな。

「オレはボン・ジョビィが好きなんだよ!」

 強盗犯はアメリカのハードロック・グループを挙げてきた。年代的にはそうだろうな。

「是非、食べてみてください。当店、イチ押しの商品です」

 ファストフード店で肉じゃがなんて珍しいが、確かに美味い。

 だから俺も、仕事帰りによくここで飯を食う。これでアルコールが充実していれば居酒屋なんだろうが、あくまでもファストフード店を貫く気概(きがい)が、「ファストフード」という店名に出ている。

 よりにもよって、そのままかよ! って初見で思ったが、気になって入ってみたら居心地はいいし、料理は美味いしで気がつけば常連になっていた。

「鶏つくねバーガーもおすすめです。ソースはおろしポン酢とゆず胡椒をお選び頂けます」

 この状況で最後まで言い切った、店員の(かがみ)だ。

 さすがに男も腹が立ったのか、拳銃を仕舞って包丁を取り出した。

 入れ替えたことで拳銃がオモチャであると自白したようなもんであるが、その輝きから今度は本物の刃物だと解る。

 それによって店内はざわつき、青年は青ざめる。