「まだまだやっていくんで興味があったら最後まで見ていってください。」
初ライブはまだまだ続く。
「最近親と喧嘩してですね。家を飛び出したら彼がいたんですよ。」
「まあ僕も親と喧嘩して出てきたんですけど。」
「彼のギターがうますぎて今日一緒にやろうと誘ったんですけど…。さすが慶太くんですね。」
「え?」
「私1人でこんなに集めたことないですもん。」
確かにそうなのだろう。
事前に聴いていた話だと三、四人って聴いていたから。
十何人いるなんて聞いてないし。
でもなんかちょっとだけ嬉しい。
夏菜子さんに少しでも貢献できているような気がして。
「じゃあそろそろ次の曲行こっか。」
「オッケー。」
楽しい時間は続いた。
そしてあっという間に終わっていた。
気づいたら2時間が過ぎていた。
周りからの拍手が気持ちよくて。
夏菜子さんの歌が心地よくて。
時間なんて忘れてしまっていた。
まだやり足りない気がしている。
「慶太くん今日はありがとう。」
「いやいや。こちらこそありがとう。」
「こんなに集まるなんて。」
「聞いてないよ。」
「だってこんな集まったことないもん。」
そりゃそうか。
「でも楽しかったよ。」
「本当?!」
「夏菜子さんのおかげだね。」
「ううん。そんなことない。慶太くんがいなかったらこんなに人集まらないもん。だから慶太くんのおかげだって。」
「でも夏菜子さんの歌があるから俺のギターがあるんだって。夏菜子さんのおかげだよ。」
「じゃあお互いさまってことでどう?」
「まあそれでいっか。」
ライブが七時から始まったのでもう九時過ぎだ。
2人でいつもの公園に帰ってきた。
「楽しかったな。」
夏菜子さんがぼそっと呟いた。
「あのさなんか私もそうなんだけどさ、知らぬ間にタメ口になっていたけどさ名前にはくんとかさんとか付けて呼んでるでしょ。」
「そうだね。」
「なんか気持ち悪くない?」
「あー。」
確かにそうかも。
「そうかもな。」
「じゃあ呼び捨てで呼んでいい?」
「もちろん。俺が駄目って言う権利はないよ。」
「ありがとう。」
でも俺には伝えないといけないことがある。
それはこの契約のこと。
契約上は今日までの契約。
夏菜子がライブ本番で『これから2人でやっていきます。』と言ったが…。
これは俺から言わないといけない。
夏菜子さんは今少し寂しそうな顔をしている。
もう会えないと思っているのかな…。
「あのさ。」
「なに?」
「さっき夏菜子さんの言うこと聞いたじゃん。」
「聞いてないじゃん。」
「え?」
「今さんって言ったもん。」
「ごめんごめん。」
夏菜子が拗ねた。
この子は大切にしないと。
「で、なに?」
「今度は俺の言うことを聞いてくれないかな。」
「しょうがないなあ。」
「ありがとう。」
「何かするの?」
「これからも一緒に路上ライブしよう。」