「永見先輩…。」
「慶太君。どうしたんだ…。」
「夏菜子に合わせてください。」
「どうしたんだ急に…?」

 早くしないと手遅れになるかも。

「やっぱり俺が何とかしないとダメなんです…。」
「でも昨日は無理だっただろう…。今は1人にさせてあげてくれ…。」
「それだと手遅れになるかもしれないですよ…。」
「まあ…。よくわかんないけど慶太に何とかしてもらうつもりではいたからな…。頼むよ…。」

 俺は永見先輩から家の住所を聞いて、そこへ向かって走り続ける。

 待ってて…。夏菜子…。

 ――――――――――――――――――

 もういや…。
 あれだけ言ったけど何だか寂しい。
 何でなの…。

 今は1人にして欲しいのに…。慶太君に抱きしめて欲しい…。
 どうして…。どうして…。

 その時家のインターホンが鳴ってドアが開く。

 階段を上がる音がして私の部屋の前で止まった。

 ―怖い―

 ドアが開く…。

「夏菜子…。」
「慶太君…。どうして…。」
「話したいことがあって。」
「今は1人にさせて欲しいって言ったでしょ。こないでよ。」

 違う…。本当は来て欲しいの…。

「でも話がしたいんだ。」
「私は…。辛いの。あなたにはわからないでしょ…。」

 そうだけど…。抱きしめて…。欲しいの…。

「いい加減にしろよ。」
「え…?」

 慶太君が…怒った…?
 え…。

「夏菜子の気持ちなんてわからない。でも辛いのが自分だけだと思うなよ。」
「え…。」
「夏菜子のお兄ちゃんだって辛い。わかってくれよ。」
「でも…。」
「俺だって夏菜子のことはいいライブのパートナーだとも思ってるし彼女として大好きだ。だからこそ辛いんだよ。」

 私は何も言えなかった。

「夏菜子だって俺の気持ちわからないでしょ…。お互い様なんだよ…。」

 お互い様…。

「ごめん言いすぎた…。帰るね…。」
「待って…。」

 私は無言で彼の足に抱きついた。
 私に中に溜まっていた何かが全て吹き出してきて涙として頬をつたう。

「ごめんなさい…。何も考えてなかった。慶太君の優しさに甘えてたのかも…。」

 彼はしゃがんで私をしっかり抱きしめてくれる。

「俺も申し訳ない。無責任な言葉かけちゃって。」

 そんな彼の優しさに涙が止まらなくなる。

「寂しかったの。もう離さないで…。」

 私は彼にそう言うと彼に唇を差し出す。
 そして彼が唇をあわせてくれる。

 ごめんなさい…。