「くそ…。」

 自分が何もできなかった無力さに腹が立つ。

 そして夏菜子のお兄ちゃんに連絡する。

「永見先輩…。ごめんなさい…。」
「聞いてくれなかったか。」
「はい…。何としてでも元気づけようとしてみたんですけど逆に傷つけてしまいました…。」
「そうかしょうがない…。俺もできなかったことなんだ。慶太に押し付けてしまって申し訳ないよ…。」
「悔しいです。何もできなくて…。」
「そうか…。ごめんな。急に呼び出して。」
「いえいえ。」

 俺はそのまま電話を切った。

 家に帰るとお父さんに今日は早いなと言われたけれど無視した。

 部屋に入ると俺はベッドで小さくなる。

 ごめん…。ごめんなさい。
 夏菜子…。守れなくてごめんなさい…。

 彼氏として失格だろう。
 彼女が苦しんでいる時に支えてあげられないのは。

 いや。それ以前にライブをするパートナーとして失格だ。
 パートナーがいなければ俺は無力だ。

 俺は自分の無力さに腹が立った。

 もうこれはライブどころじゃないな…。

 ―翌日―

 今日は夏祭り後初めての路上ライブだがこれは中止になるだろう。
 昨日もう一度明日は中止にするかどうか連絡を入れたが返信は返ってこない。

 一言ぐらいくれてもいいのにな。

 そう思いながら路上ライブの会場に行く。
 夏祭りの時に大々的に宣伝してしまったからもう一度見に来る人もいるだろうと思ってお知らせしに行かないと。

 駅前はなかなかの人がいた。

「あ、この前のお兄ちゃん。ライブはいつ始まるのかね。」
「今日は夏菜子が体調崩していて中止です。」
「あらそうなの…。お大事にね。」
「また来週来てください。」

 こんな会話を何回もした。
 そろそろ帰ろうとした時だった。

 俺の嫌いなあいつがやってくる。

「よう!慶太。今日はやらないのか。」
「夏菜子が体調崩してるからな。というか軽々話しかけてくんな。悠真。」
「まあいいじゃねえか。お大事にっていっておいてくれ。」
「てめえと夏菜子は知り合いじゃねえだろう。」
「まあそんなカッカしない。」

 何だこいつ。すげえ腹立つ。

「なんか元気ないな。」
「あ…?てめえのせいだろ。」
「違う…。なんか違う。どこか寂しそうだ…。」

 はあん?何いってんだこいつ。

「夏菜子さんとなんかあった…?」
「おまえに関係ないだろ。」
「関係ある。おまえたちのファンだしおまえの友達なんだから。」
「俺は友達だと思ってない。絶交した。」
「勝手に思ってろ!」

 悠真が怒鳴った…。
 怒ってる…?

「おまえそんな奴だったか?最近は学校でも静かだけど目の奥キラキラしてたぞ…。でも今の目は死んでる。俺のこと舐めんな。何があったか教えてくれよ。」

 ダメだ。負けだ。見透かされている。

 俺は腹を括って話すことにした。