「慶太君…。何でここに…。」

 慶太君の体、隅から隅から汗が吹き出している。
 そして目が潤んでいる。

 私は察した。
 お兄ちゃんがまた余計なことをしたのだと。

 まだ正直慶太君には話したくなかった。
 体調のことで心配させてしまったら申し訳ないから。
 いやもうさせてるとは思うけど…。

「夏菜子…。体調は大丈夫なのか…。」
「うん。まあ何とか。」

 私は無駄に元気に振る舞う。

「お兄さんから聞いたよ。」

 そりゃそうだよね。正直本当に言って欲しくなかったんだけど。

「本当なの…?」
「うん…。残念だけどね。」
「俺になんかできることって…。」
「ないかな…。」
「でもじゃあ今週のライブは中止だよね。」
「やだなあ大袈裟だって。」
「いやいや体は大事にしないと。」

 慶太君はすごく心配してくれている。
 でもだんだん腹が立ってきた。

 どこかお兄ちゃんと同じように見えてきて…。

「治ったらまたライブしようよ…。」

 無責任で…。
 治るなんて保証なんかどこにもないのに…。

「ねえ。」
「なに?何でも言って。何でもするから。」
「無責任なことしないで。」
「え?」
「治るなんて保証なんかどこにもないじゃん。」
「でも治ると思ってないと治らないよ。」
「何いってんの…?いい加減にして。治らないの私は。」

 声帯をとらないといけないなんて…。
 私は夢を失うんだから…。
 その心の傷は絶対治らないんだから…。

「でも。それでもだよ。」
「未知のウイルスなんだよ…。治らないって。」
「やってみないとわからないでしょ。」
「もう嫌い!」

 私の怒りは最高峰に達した。

「お兄ちゃんにそっくり。無理に私のこと元気づけようとして…。何も私の気持ち考えてない。」
「考えてないわけないでしょ。何としてでも夏菜子のことを元気づけたいんだから。」
「それが迷惑なの。元気づけようとして私を傷つけている…。そんなのもわからないの?」
「ごめん。」

 私の周りの人達は優しいけど無責任すぎる。
 私の気持ちを一切考えてくれていない。
 元気づけよう元気づけよう。

 これしか考えてない。

「もう1人にして欲しいのに…。いい加減にしてよ。」

 そういうと私は家に帰った。

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「夏菜子…。」

 自分の何もできない無力さに絶望する。

「ごめんね。夏菜子…。」