「夏菜子…。出ておいで…。」
もう30分ぐらいこうやって話しかけている。
でもやっぱり放って置けないんだ。
俺は夏菜子のお兄ちゃんなんだ。
夏菜子をしっかり守ってあげないと。
するとドアが開いて夏菜子が出てくる。
「なに…。」
「夏菜子…。大丈夫?」
「なに…。」
夏菜子はよほどショックを受けているらしく同じ言葉しか繰り返さない。
「もう今は1人にして欲しいの。」
「でもそんなこと言ったって…。俺は夏菜子が心配なだけなんだよ。」
「あっそ…。」
完全に挫けている。
学校で路上ライブのことをバカにされた時だってこれを糧に頑張ってやるんだって俺が説得したら前を向いてくれたのに。
完全に自分の人生の目標を失ってしまった夏菜子がここにいる。
見てられない…。
「夏菜子…。前を向こう…。」
「何いってんの…。」
「いつまでも下向いて…。」
この発言は流石に軽率だったらしい。
「いつまでも下向いてるんじゃないって…?前を見ろって…?無責任なこと言わないでよ!」
初めて夏菜子に怒られた。
「申し訳ない。少し軽率だった。」
「前が見えない人に前向こうって言って何が励ましになるの?」
「いや…。ごめん。でも前がないってまだ決めつけるのは…。」
「ないじゃん。声を失ったら私はどこを向いていけばいいの?ねえ。前がないって決めつけるなって言うんだったらどこが前なのか教えてよ。」
そうだ。確かにその通りだ。
俺は何も励ますことができてない。
「…まあそうだけど…。でも何かあるかも…。」
「ないよ…。もういいの。」
「落ち込む気持ちはわかるけどさ…。」
「わからないでしょ!お兄ちゃんは病気になったことあるの。なったとしても風邪とかでしょ。」
「いやそうだけどさ…。俺だって夏菜子が病気になってショックなんだよ…。」
「それは他人から見てでしょ。自分がなったことないのに無責任なこと言わないでよ…。」
ダメだ。俺のやっていることが全て裏目に出ている。
「お兄ちゃんのせいで気分悪くなった…。もう無責任に話しかけてこないで…。いや。もう話しかけないで…。」
夏菜子はそう言うと家を出て行った。
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酷すぎる。何なの…。
くそお兄ちゃんだ。
私の気持ちもわからないでただただ無責任に元気づけようとしてくる。
話しかけてくるにしてももっと色々考えてから喋りかけてこいよ…。
私は無意識に慶太君といつも会っている公園に来ていた。
「このブランコで一緒に歌を歌うのももうできないのかな…。」
その時だった…。
私の目の前には汗だくの慶太君がいた。