「慶太くん。せっかくここに来たんだから、このまま2人でお祭り楽しまない?」
「ああ。まあこの後何もないし、いいよ。」
久しぶりだな…。
男の子と2人きりだなんて…。
慶太くんのこと…。
好きになってるかも…。
でも言葉には出さない。
この関係が崩れてしまう恐れがあるから。
この関係が崩れると再び1人ぼっちの路上ライブが始まってしまう。
せっかくいい相方を見つけたのにここで失いたくはない。
でも今日ぐらいはいいよね…。
「ねえ…。何食べる?」
「あーどうする?何があるか見て回ろうよ。」
「そうだね。」
私は彼の後ろをついていく。
すると…。
「あ。さっきの2人じゃない?」
「あれかっこ良かったなあ。」
「将来はプロだろうな。」
多方向から声が聞こえる。
いろんなところから褒めてもらっている。
こんなに褒められたことがないから少し照れる。
本当ならめっちゃ叫びたいけれど我慢する。
こんなとこで叫んだらただの頭のおかしい人だもん。
あと慶太くんもいるし…。
「夏菜子。おーいきいてるかー?」
「あ。ごめんごめん。どうした?」
「みんなから褒められて顔真っ赤にしてるんじゃないよ。」
慶太くんはそう言いながら笑っている。
彼の笑顔はずるい。
「でもね、慶太くんのおかげなんだよ。慶太くんがいなかったらこんなところまで来れなかった。」
「いやいや。それはこっちのセリフだよ。夏菜子がいなかったら今日のあんな大舞台に立てなかったし。」
「そっか。まあいいや。お互い様。」
「久しぶりに聞いたなその言葉。」
お互いが譲りあった時に出る言葉。
久しぶりに言ったっけ。
しばらくして歩いていると射的屋を見つけた。
「ねえ。射的やりたい。」
「ああ。いいよ。じゃあやろっか。」
私は100円払って銃を構える。
パンパンパン。
全部外れた。
「あー。残念。参加賞でーす。」
「あーあ。慶太くんがやってよ。」
「いいよ。俺得意だからな。」
本当に?
かっこいいところ見せてくれるのかな。
パンパンパン
「残念。参加賞でーす。」
「えー。得意じゃないの?」
「得意だったはずなんだけどな。」
「嘘つき…。」
まあでもこんなところもいい。
何でもかんでも得意だったら逆に嫌だ。
「なあ。花火がそろそろ上がるらしいぞ。」
「そっか。どこで見る?」
「俺がいいとこ教えて上げる。」
慶太くんに手を引かれてついてところは少し離れたところにあるベンチだった。
「ここがいいの?」
「ああ。小さい頃におじいちゃんと一緒に見たところなんだ。」
「へえ。」
「お前が大きくなったらここに大切な人を連れて来なって言われたから。」
「え?」
私は戸惑った。
大切な人…。
慶太くんからそんな不意打ちを喰らうなんて思ってもみなかった。
「大切な人…?」
「嫌だった?」
ううん。そんなわけない。
私が慶太くんの大切な人になって嫌なわけない。
「慶太くん…。あの…。その…。」
「ん?どうしたの。」
やばい上手くいかない。
上手く言葉にできない。
はあ。シャキッとしないと。自分。
「慶太くん…。私…。慶太くんのことが好きかもしれないの。でもさ…。振られちゃったら路上ライブがもう一緒にできなくなってしまうと思って…。だから…。今のは忘れて…。」
「忘れないよ…。」
え?
忘れない…って…。
「俺も夏菜子のことが好きなのかもしれない。恋って何かわからないから口に出せなかったけれど。心臓がドキドキしてるってことはそういうことなのかな?」
慶太くんも私のこと…。
そう考えていた時に何かに包まれた。
私は気づいたら彼の腕の中にいた。
「夏菜子は俺の大切な人だから…。」
彼の唇がゆっくりと近づいて来て私の唇に触れた時、最初の花火が上がった。